現場は真のシビリアンコントロールを待ち望んでいる

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政策提言委員・元航空支援集団司令官 織田邦男

はじめに
 防衛省統合幕僚監部の発表によると、平成28年度1四半期の緊急発進回数は281回であり、前年度の同時期と比べて108回増加したという。その内、中国機に対する緊急発進回数は合計199回であり、前年度の同時期と比べて85回増加している。いかに中国機の活動が拡大・活発化傾向にあるかが分かる。
 スクランブル回数の激増が示すように、中国軍機の制空戦闘能力は年々向上し、挑発行動も激しさを増してきた。これまでは東シナ海上空における中国空海軍機の行動は比較的、抑制されたものであった。だが最近、明らかにこれまでとは違う中国軍機の動きが見られるようになったという。
 中国軍は能力の向上に従い、徐々に勢力範囲を広げ、戦闘機の活動領域を南下させ始めている。空自の対応、そして日本政府の反応を瀬踏みしながら、サラミをスライスするように、少しずつ尖閣諸島方面に足を延ばしているようだ。
 尖閣諸島は日本固有の領土であり領有権問題は存在しないというのが日本政府の基本的立場である。だが中国はそれを認めず、力づくで実効支配し奪おうとしている。領土、領海、領空を断固として守っていくには、政治、外交、軍事、経済、文化等、複眼的視点をもって対応していかねばならない。就中、力の信奉者である中国に対しては軍事の視点は特に重要である。

1 領空侵犯措置の任務と権限規定の問題
 平時にあっては、海では海上保安庁が、陸では警察がそれぞれ治安を維持し、安全を守っている。だが空に「航空警察」はない。平時から有事まで航空自衛隊が対応しなければならず、これに代わる組織はない。日本の領空を守るのは米軍でもなく、海保、警察でもなく空自である。
 空自は昭和33年、領空侵犯措置任務に就いて以降、1日も欠かさずスクランブル体制をとってきた。スクランブルの主対象は「ソ連」から「中国」になり、「爆撃機」から「戦闘機」に変わった。冷戦時でも領空侵犯任務が果たせたのだから、今後も果たせるだろうと、もし安易に考えていたとしたら、それは大きな間違いである。
 自衛隊法第6章には、防衛出動を始めとして、治安出動、海上警備行動、警護出動、領空侵犯措置等々、「自衛隊の行動」が規定されている。そして第7章には、各々の行動について、自衛隊或いは自衛官がどこまで武器使用ができるかという「権限規定」が定められている。だが、奇妙なことに「領空侵犯措置」だけが「権限規定」がない。このことはあまり知られていないし、このことを知っている政治家も少ない。