日米同盟の深化と海上自衛隊
―協調と拒否による創造的関与戦略―

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

はじめに
 中国は、南シナ海仲裁裁判以降も、国際社会に挑戦するかのような強圧的な主張と挑発的な行動を繰り返し、その軍事能力は着実な進歩を遂げている。北朝鮮の核・ミサイル開発も余念がなく、秋田西方沖の日本の排他的経済水域内への中距離弾道ミサイル「ノドン」の着弾は、これまでの防衛態勢のあり方に衝撃を与えた。そしてバングラデッシュの飲食店襲撃テロによる邦人犠牲に象徴される国際テロの拡大、更に自然災害の猛威も予断を許さない。このように、アジア太平洋地域には伝統的安全保障脅威と非伝統的安全保障脅威が織り成している。
 アジア太平洋地域における平和と安定を維持し、引き続き繁栄を享受するためには、中国の台頭を含む同地域をどのように管理するかにかかっている。これまで世界の警察官役を担ってきた米国は、アジア太平洋地域の重要性を認識し、「リバランス」政策を採用しているが1、依然他を凌駕する国力を有しているとは言え、拡大するテロへの対応や、イラクやアフガニスタンの戦後処理、厳しい財政事情等に頭を悩ましており、同盟国への期待は高まるばかりである。
 四面海に囲まれた海洋国家である日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」を掲げているが2、将来に亘ってアジア太平洋地域の平和と安定を保っていくためには、日米同盟を深化させることによって、他国との協力も拡大させていくことが必要である。
 それでは、日米同盟の深化とは一体何を意味するのであろうか。それは、様々な制約下における従前の受動的な防衛から踏み出し、日本の防衛のみに留まらずアジア太平洋という「地域の安全保障」において、責任ある立場に立ち、法に基づいた主張と行動を明確に示すことである。何故ならば、それにより「地域の信頼関係」を増進し、「地域の力」を結集することができるからである。
 平素から海を舞台に活動する海上自衛隊にとっても、今、日本の「積極的平和主義」をいかに具現化していくかが問われている。具体的には、東シナ海や南シナ海における平和で安定した地域秩序を維持するための主張と行動について、平素からより主導的な役割を果たすことであり、「地域」に立脚した新しいタイプの関係を構築していくことである。

1 創造的関与
それでは、アジア太平洋地域の安全保障において責任ある立場に立ち、かつ日本の防衛とともに国際的な責務を果たすために、海上自衛隊が、米海軍との協力関係を深めながら、採るべきより実効的な戦略とは一体どのようなものであろうか。