フランスから見る欧州・中東・アフリカ情勢(その3)
テロの脅威が続くヨーロッパ  ― フランスで起きた神父殺害事件から ―

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研究員・S.Y. International 代表 吉田彩子

 2015年にはフランスで1月と11月に大きなテロ事件が起こり、複数の襲撃事件や未遂事件もあった。2016年に入ってからは3月2 日にベルギー・ブリュッセルで連続テロが起こり32人が死亡、更に7月14日の仏革命記念日には、フランスのニースで86人が死亡するテロが発生、同月26日にはルアンの近くの教会で神父が殺害される事件が起きている(全てダーイッシュ〈イスラム国・IS〉が犯行声明を出した)。同時期に当たる7 月18日~24日には、ドイツで4件の事件が起こり、そのうち2件はダーイッシュが犯行声明を出している。ドイツでのISが犯行声明を出すテロはこれが初めてであった。

ルアン近くの教会で起きた神父殺害テロ事件
 7月26日(火)午前9時30分頃、2人の男が、ルアン近くのサン・テティエンヌ・デュ・ルヴレ(ノルマンディ地方セーヌ・マリティム県にある人口2万8000人の街)の教会で、礼拝中の5人(神父、修道女2人、信者の夫婦)を人質に取り、86歳の神父の首を切り殺害する事件が起きた(修道女は3 人いたが1人は逃げた)。男らは「アラーアクバー(アラーは偉大)」と叫び、教会を出たところを警察に殺害されている。同21時にはパリ検察長フランソワ・モランが記者会見を行ない、犯行を起こした2人のうち1人は偽爆弾ジャケットと刃物3本を所持しており、もう1人はタイマーと爆発物をリュックサックの中に所持していたことなどを伝えた。ダーイッシュは27日、プロパガンダメディアAmaqを通して、2人がアル・バグダディに忠誠を誓っているビデオを流している。
 犯人2人のうち1人は、アルジェリア人の両親を持つ19歳の仏人、アデル・ケルミッシュで、Sファイル(国家治安にとって脅威と見做される人物が載っているリスト)に載っていた人物である。ケルミッシュは2015年、2回に亘りシリアに行くことを試みたとされ、1回目はドイツで、2回目は5月にトルコで捕まっている。2回目にトルコで拘束された際にはフランスに送り返された後に収監されており、2015年5月~2016年3月までフルリー=メロジス刑務所にいたが、2016年3月22日に出所していた。収監中に更に過激化したことも指摘されている。