第160回
「ウクライナ戦争と台湾海峡危機」

長野禮子
 
 蔓延防止重点措置のため予定していた2・3月開催を中止としたが、3月21日に解除されたことから、約3ヵ月ぶりの「Chat」開催。桜花爛漫の日和に恵まれた。
 今回は、河野克俊前統合幕僚長をお招きし、「ウクライナ戦争と台湾海峡危機」についてお話を伺った。河野氏は統幕長時代、ロシアのショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長とも面識があったことから、今次のウクライナ戦争のロシアの目的や具体的戦術、現状分析とともに、中国習近平政権による台湾海峡危機、北朝鮮のミサイル発射など、日本を取り巻く安全保障環境についても詳しくお話頂いた。
 2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって「ブダペスト覚書」など安全保障上のスキームが崩壊した。国連改革が叫ばれて久しいが、核不拡散(NPT)体制は常任理事国5大国という「分別ある国」にのみ核保有を許す体制だ。その中にそうでない国が入っていることが明らかになった。安全保障を米国に委ね「核の傘」を信じる日本への影響は大きく、朝鮮半島の非核化を協議していた六者協議も雲散霧消し、今や北朝鮮は核開発、核弾頭ミサイル発射を臆面もなく堂々と実施している。核保有国の中・露・北の隣国にあり、我が国は未だ「唯一の被爆国」として核に対する思考停止を続け、議論さえも躊躇している。そんな綺麗ごとが通用する時代はもう終わったのではないか。
 日本が主権を回復して70年。米製憲法を改めることなく今に至る。人の一生に値するこの長い年月、我々日本人は、刻々変化する国内外の安全保障環境にそんなに鈍感だったのか。国家の繁栄とともに国民の成長はなかったのか。
 「ウクライナ戦争」における安全保障の教訓は、「米国は日本を守ってはくれない」ということだ。「米国の核の傘は当てにならない」ということだ。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して・・・専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において・・・」では、日本国は守れないということだ。
 米中対立が世界の安全保障問題の基軸になった今、日本はその最前線に立っているということ、他人任せの安全保障で「平和ボケ」になった日本は、手の施しようのない重度な認知症に陥っていること――を自覚しなくてはならない。
 21世紀に起こった「ウクライナ侵略戦争」は、世界中の人々に多くの事柄を覚醒させた。我が国も今一度、外交、防衛予算を含む安全保障問題、改憲、最大の抑止である核論議の検討に、知恵と力を惜しむことなく出し切る努力をするときであろう。今を生きる我々は、次代を担う若者たちにこの国を託すに当たって無責任であってはならない。

 

テーマ: 「ウクライナ戦争と台湾海峡危機」
講 師: 河野 克俊 氏(JFSS顧問・前統合幕僚長)
日 時: 令和4年4月1日(金)14:00~16:00
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