国連PKOと銃弾の提供 常務理事  ��井　晉 1　銃弾の提供と韓国の対応 　新聞報道によると、日本政府は、12月23日、南スーダンに設置された「国連南スーダン共和国ミッション」(UNMISS)の自衛隊施設部隊(約400人)が保有する5.56ミリ銃弾約1万発を、国連の要請に従って韓国軍工兵部隊(約280人)に無償で譲渡したという。日本政府は、発足間もない国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合と9大臣会合を召集して対応を協議し、持ち回り閣議で銃弾の提供を決定した。 　南スーダンは、2011年7月9日にスーダンから分離独立した新国家であるが、その後、キール大統領の政府軍とマシャール前副大統領の反政府部隊の民族対立による戦闘が継続している。12月15日にジュバで始まった戦闘が東部や北部に拡大し、1週間強で住民1,000人が死亡し、7万人以上の住民が各地の国連施設に逃げ込むなど国内治安が急速に悪化してきた。韓国部隊は、内戦への危機が高まった南スーダン東部のジョングレイ州ボルに展開しており、同州では既に武装勢力の攻撃で2人のインド部隊要員が死亡している。日本政府は、「緊急事態に対応するもの」として銃弾の提供を決定したのであった。 　しかし韓国国防省の報道官は、日本による銃弾提供に対して、派遣部隊の予備銃弾が不足していたわけでもなく日本による銃弾提供に対して、あくまで緊急事態に備えた措置であると主張した。また韓国の有力紙の朝鮮日報は、銃弾提供を「政治的に利用している」として韓国政府が外交ルートを通じて日本に遺憾の意を伝えたと報じた。東亜日報は、韓国政府が安全上の理由から提供完了まで非公開にすることを日本政府に要請していたとも報じた。多くの日本人は、韓国部隊への銃弾提供を遺憾、かつ余計なことであると表明した韓国政府の態度に、大いに違和感を覚えたのであった。 ２　現代的国連PKOとUNMISS 　国連PKOは、国連安保理事会の決議により設置され、国連加盟国の軍隊が平時に行う紛争再発防止のための実践で、国連が全責任を負う国連指揮下の活動である。国連が設立されて以来、国連の国際紛争解決システムが十分機能しない状況下で、国連PKOが停戦合意、加盟国軍隊の受け入れ同意、非戦闘任務等の原則に基づいて、展開先で停戦合意遵守のマンデート(任務）を遂行してきたことは周知のとおりで、国連PKOは刻々変化してきた。 　冷戦期間中に多く設置された伝統的PKOは、国家間の武力衝突後に紛争当事国の同意に基づいて国境に展開して任務を遂行する。ゴラン高原に展開する「国連兵力引き離し監視隊」（UNDOF)その例で、自衛隊部隊は昨年撤退した。 このほか、冷戦後に多く設置されることになった現代PKOは、政府が住民を保護できない破綻国家内に展開し、国内統治のかたわら正統政府の樹立を支援する活動がある。「国連カンボディア暫定統治機構」（UNTAC）は、日本が初めて貢献した現代PKOの例である。 　現代PKOは、正統政府が樹立された場合、任務が終了し撤退する。しかし樹立された新政府が弱体な場合は、紛争後の平和構築支援を任務とする現代PKOが設置されることがある。日本が貢献した「国連東チモール支援団」（UNMISET）はその例であり、今回のUNMISSもやはり平和構築支援の任務を付与されている。 　国連PKOは、安全保障環境の変化に対応して変貌し続けている。伝統的PKOの場合は、正規軍が対峙する国境に展開するため、停戦合意は比較的遵守されてきた。しかし一国内に展開する現代PKOは、武装集団間の停戦合意が必ずしも遵守されないため、常に住民のみならず国連要員に対する危険が伴っていた。 「国連ルワンダ支援団」（UNAMIR）の展開先で住民150万人以上が虐殺されたジェノサイド(大量虐殺)や「国連保護隊｣(UNPROFOR）が展開するスレブレニッツアで8千人のイスラム系住民が忽然と消えたエスニッククレンジング(民族浄化)の発生は、国連安保理をして住民の安全のための武器使用を認める決議を採択させた。UNMISS軍事要員も事態の悪化に応じて武器使用が認められている。 　2012年1月から東チモールに展開する自衛隊部隊は、ジュバを根拠に主として道路整備任務を遂行してきたが、治安悪化後は国連施設内で避難民の医療支援や給水活動を行ってきた。日本政府は、従来の国連PKOへの貢献政策を大きく変化させ、UNMISSの任務遂行のためにあらゆる努力を傾注し、展開先で初めて自衛隊部隊の活動と政府開発援助（ODA）を組み合わせ実施している。外務省が行う草の根・人間の安全保障無償資金協力との連携案件第1号のナバリ地区コミュニティ道路整備はその例である。   ３　国連PKO軍司令官のコマンド 　国連PKOは、国連が責任を負う活動であり、国連に提供された軍事要員は、国連事務総長が任命する軍司令官のコマンド(指図)に従うことになる。しかし各派遣部隊指揮官は、同時に各派遣国の指揮監督下にあるため、時として軍司令官の指図に従えないことがある。このような場合、一般に、各派遣部隊の指揮官は、軍司令官に対して指図に従えないこと、指図するなら自国政府にその旨を依頼するよう要請できる。軍司令官はその旨を国連事務総長へ報告し、同総長は派遣国に対し派遣部隊が軍司令官の指図に従うよう要請する。換言すると、現地部隊は、派遣国からの指揮に基づいて軍司令官の指図に従うことになる。 　今般の事例の場合、ジョングレイ州の治安が極度に悪化したことに伴い、軍司令官は、司令部において各派遣部隊指揮官に住民保護を指図したが、その際に韓国部隊は銃弾不足を申告したと推測される。また、軍司令官は銃弾不足の対処について、関係部隊と相談した結果を国連事務総長へ報告し、韓国部隊は本国政府に銃弾の追加を要請したと思われる。銃弾提供の可否を問われた現地の自衛隊部隊は、派遣前に作成された「実施要領」に弾薬提供の記載がないこともあり、直ぐには提供できないため日本政府に弾薬提供を要請するよう軍司令官に報告したのであろう。 　韓国政府は、派遣部隊からの要請にどのような回答を行ったかは不明である。しかしながら、韓国政府の派遣部隊に対する回答がどのようなものであれ、国連事務総長から日本政府に対して銃弾の提供を要請してきたことは事実であり、日本政府は、前述したように、緊急事態への対応としてこれを決定したものである。日本政府に対する韓国政府の遺憾の意の表明は、不可解かつ的外れなものであり、国連PKO政策の失態を取り繕うものであるなら、最早苦笑するほかない。このような韓国の態度は、同じ平和構築の現場で協力関係にあるだけに残念でならない。 　最後に、今般の韓国部隊への銃弾提供は、国際平和協力法第24条に基づく「物資支援」であり、いわゆる「武器輸出3原則｣とは全く無関係であることを付言したい。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （2014年1月6日） ホームへ戻る