理事・政治評論家
 屋山太郎



  


「民主党代表選挙の行方」


 今回の民主党代表選では野田佳彦財務相を推すことになっていた前原誠司前外相が、急遽出馬することになった。野田擁立の筋書きを描いたのは仙谷由人官房副長官で、氏は前原氏の「凌雲会」の後見人のような立場にある。仙谷氏の目論見では@今回は野田氏を代表に就けて財務省の書いた税・年金一体改革を自民党との大連立で実現するA来年の9月の代表選で本命の前原氏を担いで総選挙或いはダブル選挙に臨む―というものだった。
 しかし大連立、大増税路線に乗る党内の勢力は極端に少なかった。野田氏の支持が広がらず、一方、馬淵澄夫前国交相、鹿野道彦農相らが小沢氏に『党員資格停止』処分の解除を約束し、小沢グループの支持をとりつけようとする様を見て前原氏は立場を変えた。このままいけば小沢系の候補者が代表に当選して小沢氏がカネを握る。小沢氏は党のカネを握って30人の手勢を150人に増やした前科がある。
 前原氏の強みは国民的支持が断トツに高いことである。仮に野田氏の大増税路線で党勢が急落し、そのあとに登場したのでは人気を生かすことは難しいだろう。
 加えて民主党は『小鳩内閣』『菅・仙谷内閣』で信用は失墜している。各種世論調査をみると、国民が両内閣の反米・親中路線を嫌悪していることが分かる。この点、前原首相なら国民は安堵するのではないか。
 信用失墜のもう1つの理由は、民主党がマニフェストで約束したことをほとんど実行していないことだ。小沢氏が執行部に『マニフェストを実行しろ』と言っているのはいわゆる4Kのことだ。4Kが実現できないのは財源となる天下り法人潰し、行政改革に一切手をつけていないからだ。
 民主党の公約では公務員制度改革を実現するために『内閣人事局』『国家戦略局』『行政刷新会議』の3つを設置し、財務省の権限を上回る支配力を内閣に与えることになっていた。この改革方針をすぐに捨てたのは仙谷由人氏だった。官僚全体を仕切る財務省が強く反対し、非協力を通告されたため仙谷氏は財務省との妥協も止むを得ないと判断した。
 加えて財務省時代の菅総理、引き続いて野田財務相は完全に洗脳されてしまった。
 2年にわたって改革に着手せず、財源不足をすぐに増税に求めるのは財務官僚の通弊だ。民主党は見事に官僚の罠に落ちたのだ。
 落ち目の民主党を見て、かつては大連立に色気を示した自民党もほぼ反対一色となった。
 大増税・大連立の筋書きを書いたのは仙谷氏と大島理森自民党副総裁だが、現状はとても筋書き通りにはならない。
 このままの状況では2年後、民主党が政権を失うのは必至だ。
 唯一の打開策は本命の前原氏が前面に立って、公約した天下り根絶、ひいては公務員制度改革を死に物狂いで進めることだ。自民党の側でもこれらの改革に呼応する勢力は多い。行革に盾突くようでは次の選挙がおぼつかなくなるからだ。
 前原氏に対抗する候補者は小鳩枢軸を頼りにせざるを得ない。このグループは小沢氏130人、鳩山氏40人と言われているが、次の選挙を小沢グループに所属して戦うのを躊躇する空気もある。前原氏のもとで選挙をした方が有利だという計算だ。
 小鳩枢軸が3代目の首相を取りに出る図は見苦しい。改革を愚直に実行する他ないのだ。

                                                (8月24日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 
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