理事・政治評論家
 屋山太郎



  

「不退転の決意」で臨むは消費増税の“前提”である

 民主党が消費増税への全国行脚に乗り出した。1人が「20人程度の集会を1日2回開け」と野田首相、岡田副首相が陣頭に立っている。消費増税が必要なことは国民の大多数が理解している。野田首相が税制と社会保障の一体改革を言い出す前、主要紙の世論調査では「消費税率の引上げやむなし」が50%以上を占めていた。ところが野田首相が消費増税に「不退転の決意」を表明すればするほど、賛成派が減ってきたのである。首相としては意外な現象と見ているようだが、これは首相が増税の“前提”である「天下り根絶」「天下り法人の廃止」「渡りの禁止」といった公約を何ひとつ実現していないからだ。
 党内にも最初に“前提”を実行すべしとの意見が100人ほど存在する。その代表的な一人が小沢一郎氏だが、この人物にそのようなことを言える資格があるのか。裁判の被告で党員資格停止を言っているのではない。
 鳩山由紀夫内閣が発足した時の幹事長が小沢一郎氏だった。本来なら民主党の政策を一手に握る権力を手中にした。日米関係の認識が薄いことはわかっていたが、こういう強力無双の幹事長でなければ官僚内閣制は潰せないと信じたものだ。ところが、小沢氏が一番最初にやったことは、日本郵政の社長に元大蔵次官の斉藤次郎氏を据えたことだ。これほど歴然とした天下りのケースは珍しい。こういうどでかい間違いを平然と犯すと、あとの天下り防止対策など全く意味がなくなる。官僚は安堵し、党内の改革の意志も一気に萎んだ。
 民主党は、公務員改革制度の第一着手として「内閣人事局」と「国家戦略局」の創設を打ち出していた。内閣人事局は各省幹部600人の人事を内閣が握るもの。あまりにも省益に固まる幹部達を“国益”中心に勤務評定するものだ。国家戦略局の設置は財務省の方針をも動かす力を持たせようというものだった。ところが大蔵官僚出身の藤井裕久氏が、「国家戦略局の立法化を図ると時間がかかる。ここは『室』を置いて大物を据えた方が手っ取り早い」と云う。そこで菅直人氏を副総理に据えて「国家戦略室担当」とした。国家戦略など考える能力もない人物を副総理として閉じ込めるとは財務官僚はしたたかだ。鳩山内閣が潰れると菅首相、野田財務相の布陣となる。この2年の間に官僚制度の改革をサボれば、増税への一本道しか残らなくなる。財務官僚の手管と時間稼ぎで、野田氏は財務省の思うツボに落ちる。
 岡田副総理は官僚改革が不可欠だということは理解していて、公務員給与の2割削減の一部として8%下げを打ち出した。連合がこれを受け入れたのは「労働協約締結権」を獲得するのが条件である。これについては自民党が強く反対しており、成立の見込みは覚束ない。官民格差は退職金、年金、給与に及んでおり、これに全く手を付けずに、天下りも野放しでは、国民が納得しないのは当然だ。

                                                                                                                                     (2月15日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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