理事・政治評論家
 屋山太郎



  

未だ国民不在、党内融和に専心する民主党
―党運営破綻に棹差す小沢・二閣僚問題の棚上げ―

 民主党の輿石東幹事長の政治手腕の限界が見えてきたようだ。野田佳彦首相が幹事長に三顧の礼を尽くして輿石氏を迎えた時に、世間はアッと驚いたものだ。野田氏の見立てによると、輿石氏ほど組織をまとめる能力に長けた者はいないということだった。確かに輿石氏は左右の対立に明け暮れた山梨県日教組を遂に安定させ立ち直らせた。といっても左右共存を図ったわけではない。“異分子”を追い出して山教祖を安定化させたのである。
 野田氏が輿石氏に白羽の矢を立てたのは、社会党左派から保守党まで抱え、常に背後にイデオロギーの対立があるのに加え、小沢問題を抱えていたからだろう。輿石氏は小沢氏の子分ではないから小沢氏も公然と輿石氏に楯は突けない。防衛、国交二閣僚の責任問題や小沢氏の政治資金規正法違反問題の処理をみると、輿石氏の手法は明らかになる。全てに決着はつけず、問題人物を抱え込んで、党内では文句を言わせない、ということのようだ。
 輿石氏は消費増税の採決がいつ行われるかが、与野党の焦点になっている時に、突如「来年夏の衆参ダブル選挙が望ましい」と言ってのけた。自民党の谷垣総裁は野田首相に「消費増税を早くやって貰いたければ、早期の話し合い解散にしよう」と持ちかけている。谷垣氏にとっては9月が限界だ。早い話し合い解散だと民主党は打撃を受けるが、野田氏はそれでも「歴史に名を残せば良い」と腹を決めているようだ。しかしこの路線だと大打撃を受けるのは小沢グループである。野田氏にとっては「小沢切り」だが、小沢グループにとっては消滅の危機である。
 小沢氏は「無罪判決」を受けたのに10日に控訴されたのは心外至極だったろう。しかし輿石氏は控訴期限の前日に、小沢氏の党員資格停止処分の解除を決めた。司法の場に対して「こっちは関係ない」と喧嘩を売ったようなものである。これで小沢氏は輿石氏に大きな借りができた。
 一方、参院で問責決議を受けた二閣僚については「辞めさせる必要がない」と庇う。
 輿石氏は7日「まず党内が一致結束することが最優先だ」と総括した。
 確かに党内は今のところ、乱れていない。しかし小沢グループでさえ、事態がこのまま進むとは思っていない。反増税の集まりは100人も集まったが、「先が読めないから付き合っただけ」という若手議員が多いという。
 自・公両党は二閣僚の辞任がなければ、審議に応じないという。応じないからと言って増税案を継続審議にし、来年夏まで採決を見送るというわけにはいくまい。国会は小沢氏に政倫審への出席を要求しているが、小沢氏には出席の意向は全くない。
 二閣僚、小沢問題では党内の怒りが膨張しつつある。野田首相は党内を鎮めるためにTPP参加交渉まで見送ったが、原発規制庁の設立も急を要する。輿石式の党内しか見えない政党運営では早晩破綻するだろう。

                                                                                                                                           (5月16日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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