理事・政治評論家
 屋山太郎



  

最早、党内宥和を言う時ではない
―消費増税と小沢氏の去就―

 「税と社会保障の一体改革」について民、自、公の3党が合意した。一体改革を盛り込んだ法案は会期末の21日に衆院で採決される見通しだ。採決を巡って消費増税にあくまで反対を叫んできた小沢一郎氏のグループの去就が見ものだ。増税に反対の中間派を巻き込んで採択に反対するか、欠席戦術に止まるかは民主党の命運を左右する。
 採択に明からさまに反対票を投ずれば、政権政党として除名をしなければ責任政党とは云えない。輿石幹事長は「欠席なら不問」に付す意向のようだが、輿石氏の思惑のように再び党内が融和すると言うことはあり得ないだろう。
 小沢一郎氏が党を割って新党を創設するという見方もあるが、新党創設、即ち民主党脱党となれば、なまじっかの覚悟ではできない。小沢グループ120人、鳩山グループ40人、他に鹿野道彦氏らの“中間派”がいるが、そっくり脱党することはあり得ない。というのも彼等は増税には反対したが、翻って小沢氏が何を狙って新党を創るかが、判然としないからだ。
 今のところ小沢氏は9月の代表選で、野田佳彦代表を叩き落とし、自分か自分の傀儡で政権を奪おうと狙っているようだ。しかし小沢氏自身が代表選に出ることはないだろう。曲がりなりにも政治資金規正法事件の刑事被告人であるから、“代理人”を立てるしか主流派を潰す手がない。
 小沢氏の倒閣、野田降ろしの大義名分は「増税反対」だが、増税法案が可決された後に何か他の名分があるのだろうか。
 仮に小沢氏が新党を構想するとして、立党の理念は何なのか。民主党が政権をとって以来、小沢氏の政治家としての理念はどういうものか仔細に追跡してきたつもりだが、全く不明だ。「天下り根絶」の旗を掲げながら初代幹事長として実行したのは日本郵政の社長に元大蔵次官の斉藤次郎氏をもってきたことだ。これほど言動の矛盾することはあるまい。中国に国会議員150人を含む600人の訪中団を率いて、各人に胡錦濤主席とのツーショット写真を撮らせた。習近平氏の訪日に当たってはゴリ押しで天皇陛下との会談を宮内庁に吞ませた。日本の政治家ならば常に備えているべき天皇家に対する尊崇の念、中国との距離感について、小沢氏は全く無知だ。
 小沢氏が新党を創るのは、政治資金面でも理念が欠落している面でも、人望の面でも無理だろう。党内に留まって、主流派を揺さぶる戦術しか残っていない。しかし増税という対立点が不満ながらも棚上げされてしまうと、何を理由に野田降ろしを図るのか。
 この3年近い民主党政権で浮かび上がってきたのは親米か親中かの理念の相違だ。今、国民の外交意識は「中国が嫌い」という割合が未曽有の9割を占める。野田政権と鳩山、菅政権はこの点で互いに異質のものだと認識すべきだろう。民主党は割れる方が自然なのだ。

                                                                                                                                           (6月20日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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