「官僚内閣制」からの脱却
―政界再編のうねりは始まっている―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 次の解散総選挙で、民主・自民の二大政党制が崩壊することは間違いない。13日付読売新聞によると橋下大阪市長率いる「大阪維新の会」が支持を集めて“第2極”に踊り出る様相を示している。
 これまで「維新」はまだ政党ではなかったから次の衆院選でのブロック別投票行動調査から外されていた。維新の支持者はこれまで「支持政党なし」の中に埋もれていたが、読売調査では、敢えて既成政党に加えて維新の支持率を調べた。
 衆院選ブロック別の比例投票先では自民21%に続いて維新が16%、民主が11%を示した。東京だけをとってみると自民27%、維新7%、民主5%だが、近畿では自民19%、維新29%、民主10%で維新が圧倒的に強い。
 橋下徹市長は「そのうち」の総選挙に備えて、民主・みんな・生活一・無所属などの若手5人と会談したことが伝えられている。いよいよ選挙となれば5人以上の議員を揃えて政党要件を満たし、選挙活動に入る段取りのようだ。
 一方で維新八策の具体化が進められているが、八策は党綱領のようなもの。八策から窺われるのは、憲法改正、日米同盟強化による安全保障の強化、TPP加盟による国際化、中央集権打破による地域主権の確立と、どこから見ても“保守路線”である。
 当初、予期した二大政党制が崩れ、早くも政界再編のうねりが始まった理由は何か。
 3党合意に見られるように民主、自・公体制は“財務省丸抱え”と云われるように、裏で官僚に指揮された体制である。自民党の安倍晋三氏は「官僚内閣制」から脱却しなければならないという論者だが、安倍氏の属する町村派の町村信孝氏は現体制でよしとする派である。これを不満として渡辺喜美氏は党を割って出てみんなの党を創設した。この官僚内閣制に反発する国民世論は改革の実現を民主党に託して、民主党を大勝させた。
 改革の旗は「地域主権の確立」というもので、その手はじめに中央の出先機関の「原則廃止」を打ち出した。憲法改正とか防衛についての党内のコンセンサスがないから、地域主権の確立は民主党にとって絶好のテーマだった。
 中央集権から地域主権へ官僚組織を組み替えるキーポイントは財務省、外務省をも指揮する「国家戦略局」の設置だった。しかし中央官僚の抵抗で戦略局は、室に格下げされ、法的裏付けのないものに堕した。菅直人、野田佳彦首相、安住淳財務相などは国家の構造改革への意志が弱いから、あっという間に消費増税路線を歩まされてしまう。谷垣総裁も同じだ。
 3党合意は財政の将来を構想すれば必要なものだが、国民が期待していた官僚改革とは全く違う。地方分権、地域主権を望む国民はその意志を維新の会に託すことになる。
 外交をめぐる分裂は最早ないから、国民の選択肢は@従来ながらの官僚内閣制でいいのかA地域主権を切り口に国家の構造を変えるか―に二分されていくだろう。

                                                                                                                                           (8月15日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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