政・官・業の癒着構造が「成長戦略」を阻む
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 八ッ場ダムの造成事業再開で、民主党政権は看板ともいえる「コンクリートから人へ」の政策転換を忘れてしまったようだ。次は自民党政権になりそうだが、この党も「国土強靭化」の名の下にトンカチ行政に突き進む気配を示している。民主党も自民党もこの辺で頭を切り換え、成長戦略を練り直し国造りの手法を変えて貰いたい。
 なぜ民主・自民両党とも成長戦略をとれないのか。その理由は既成の業界団体を困らせるわけにはいかないからだ。
 私は1993年に「官僚亡国論」(新潮社)という本を書いた。書いた動機は7年間のヨーロッパ滞在を経験し、日本には無用な規制が多過ぎることを痛感したからだ。
 私がジュネーブから帰国したのは1980年だが、まず驚いたのは車検代の高さである。1回の車検で5〜6万円かかるが、スイス駐在中もその前のイタリア駐在時でも「車検代が高かった」というイメージがない。車検メーカーが「この車種なら7000キロ毎にガレージでチェックせよ」と指示する。それに要する費用は油交換まで入れてせいぜい1万円程度である。それが日本の場合、2年で車検、あとは半年ごとの点検と義務化している。
 たまたま帰国直前にホンダが5年間保証の車種を売り出し、ヨーロッパは度肝を抜かれたものだ。ところが同じホンダでも日本では2年間で部品交換を含めて車検を義務化しているのだ。車検の不合理について書いたところ宮沢内閣時代、行政改革推進審議会に呼ばれた。委員の面々は即座に納得してくれたのだが、運輸省も族議員も改革には絶対反対である。
 車検業者で構成される日本自動車整備連盟という団体がある。これを応援する族議員は当時、自民党だけで195人もいた。選挙区に100団体あれば、従業員も含めて1000票集まり、選挙資金も5000万円は楽に集まったと言われた。この票田を運輸省が必至で守ったのは車検場業界団体の事務局長、専務理事に天下れるからだ。これは政・官・業の癒着構造の典型的なもので、庶民の懐がいかに痛もうと、制度を変えないのが官僚なのだ。
 この制度は10余年後の92年になって、ようやく風穴が開けられたが、「安全性」の名の下に、日本国民だけが無用の車検を強いられていることに変わりない。
 民主党は鳩山内閣から3代にわたって「成長戦略」を名前を書き替えて出している。共通しているのは農業、医療、エコの3種目が含まれていることだ。自民党が改革をできなかったのは運輸族に見るように、業界団体の票が欲しかったからだ。
 民主党政権になったら諸改革が一瀉千里に進むかと期待したら、民主党のやったことは農協、医師会をオセロゲームのように引っくり返しただけだ。橋下徹・日本維新代表のいう「フワッとした民意」は無視されている。
                                                                                                                                           (10月17日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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