民主党の空手形「天下り根絶」と「地域主権」
―自民党安倍政権による壮大な国家改造とは―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 「天下り根絶」を最大の公約とした民主党政権が、一つの天下り法人も潰せず、国民に失望されて政権を去った。天下り問題は政党を潰すほどの大問題なのだと改めて認識した。
 「天下り」というのは特に高級幹部の(キャリア)の処遇体系と密接に関係がある。このため天下り先の法人は社会が必要としていないものまで存続させる。ポストを与えるために新しい天下り法人を作り出すことまで行われていた。
  天下りを根絶するためには官庁のピラミッド型になっているキャリア人事を止める必要がある。そこで自民党時代、渡辺喜美行革担当相(みんなの党代表)は定年を延長して年金に繋げる(天下りを不必要にする)。そのためには年功に従ってひたすら上昇する給与表を改めて50歳役職定年や昇格停止や降格も行う。その人事評価のため内閣に「内閣人事局」を設ける構想を打ち出した。渡辺氏は当初、キャリア幹部600人ほどを対象に考えていたが、民主党時代になって、その人事評価が一般職にも及ぶのではないかと連合が極度に警戒的になった。加えて人事評価をするためには給与水準を決める人事院の存在が邪魔だ。そこで民主党は人事院の廃止を打ち出したが、これに対して自民党は給与をそれぞれの現場で決めることになったら、軒並み給与が上昇すると反対に廻ることになった。
 民主党は給与の決定権(人事評価)と関係なしに職場(天下り先)を潰すわけにはいかないと「天下り根絶」を空手形に終わらせた。
 民主党のもう一つの空手形は「地域主権」である。地方分権については、30年も前から叫ばれてきたが、中央と地方の事務の権限分担を仕分けた以外に見るべき進展はない。欧州では一都市30万人が適正規模とされ、地方都市が繁栄を競っている。首都圏に3000万人などという姿は、中央集権がいかにバカバカしいかを物語る。
 日本維新の会の橋下徹大阪市長と石原慎太郎前東京都知事が「中央集権をぶっ潰す」の一点で結びついた。これは東西の横綱がいかに中央集権制度が地方の発展を阻害しているかを実感したからだろう。
 麻生太郎氏は首相時代「国の出先機関は二重行政の弊害があるから廃止」と明言した。この方針には安倍氏も賛同していたが、再び首相となった安倍氏は今度は「地方分権」について具体的提言をしていない。また内閣の方針も明らかでない。官僚と真っ正面から衝突するのは得策ではないと判断しているのだろう。
 というのも国の出先機関を廃止することは、道州制の導入に繋がる。道州制になれば財源の配分方法について、橋下氏の言うように消費税を充てろという以外の案は出ていない。民主党政権では補助金を一括交付金とし、各省出先機関の介入を排除しようとしていたが、安倍政権になってもとの補助金に戻した。
 壮大な地方分権(地域主権)の構図を描いて、維新、みんなの協力を得てから国家改造に取りかかるのが安倍氏の魂胆なのだろう。

                                                                                                                        (平成25年3月13日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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