TPPきっかけに農業の構造改革を断行せよ
―コメの品種改良・借地方式・減反政策の見直し―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について安倍・オバマ両首脳会談で「全ての関税撤廃を約束するものではない」と確認され、自民党も交渉への参加を承認した。この方針について国民世論は大方の調査で「賛成」が過半数を占めている。
 TPPについてはアメリカの餌食になるとか、国内産業がダメになると内向きの発言ばかりが強調された。しかし国民は20年に亘る社会、経済の閉塞状況を打破したいと願っていたのだろう。日経新聞(3月25日付)に面白い統計結果が出ている。安倍内閣の経済政策で景気の回復は「期待できる」が61%。「できない」が25%である一方、世帯の所得増は「期待できない」が69%を示している。
 これは月給が増えなくてもいいから、何か手を打ってくれという心境を示しているように見える。その一手がTPPでもいいということだろう。日本の発展は貿易面で幅と厚みを加えることによってのみ可能だと思う。55年にガットに加盟して以来、日本経済は正に一本調子で成功した。しかし、いまTPPに入って同じ調子のエンジンがかかると云う訳にはいかないだろう。
 日本が工業製品の貿易面で不利を蒙ってきたのは、農産物を守る代償だった。今回、更なる貿易上の発展をするためには農業問題を解決するほかに手がない。
 農水族やJA の中にはコメ、砂糖・でんぷん、乳製品、麦、肉の5品目を聖域として断固、守れという主張がある。しかし、首脳会談の共同声明では両国とも「センシティブな品目がある」ことを認めただけで、聖域だから「触れない」とは言っていない。
 5品目のうち最重要問題がコメであることは紛れもない。コメ問題さえ片付けば、あとの品目は黙っていても競争原理の中で片が付く。脱落者にはセーフティネットを張ることも覚悟してスピード感をもってやって貰いたい。
 2005年から10年のたった6年間に農業就業人口は335万人から261万人に22%減った。農家戸数も152万戸から118万戸に22%減っている。この現象傾向は今も継続中であり、あと5年も経つと更に急速になる。1970年以来、40年間も減反を続けているため、70年時点で344万ヘクタールあった水田は現在250万ヘクタールと100万ヘクタール近く減少した。農水省の「農業経営統計調査」によるとコメ1俵(60kg)当たりの生産費は0.5ヘクタール未満の規模では1万5466円だが、15ヘクタール以上の規模だと6470円
となる。
 この減反政策は単収の増加をも阻害してきた。日米の単収を比べると日本のコメはカリフォルニア米より4割も低い。向こうは陸上直まき、日本は水田でこの違いがある。@品種を改良する A15ヘクタール以上の規模の農家に田んぼを集める(借地方式) B減反をやめる―以上の政策を手順よく進めれば、中国米にも対抗できるどころか、コメを世界市場に売り込むことも可能だ。
 TPPをきっかけに構造改革を断行せよ。
                                                                                                                        (平成25年4月3日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載年別  
2014年の『論壇』

2013年の『論壇』

2012年の『論壇』

2011年の『論壇』
 

ホームへ戻る