中国の「核心的利益」に抵抗するASEAN諸国
―東・南シナ海における日米同盟の重要性―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 中国の尖閣諸島領有への野望は止むことはないだろう。本来、“中華”の名が示すように東夷征伐は民族の歴史的使命である。尖閣を獲り、フィリピンを獲れば念願の太平洋への進出は自在になる。尖閣が中国の「核心的利益」というからには尖閣を獲るという旗を下すはずがない。日米と軍事的対決はしんどいと思っても、国内政治上、「どこかで旗を下そう」と思っても言い出した政治家は途端に失脚するだろう。
 こういう歴史的膨張指向に対して、フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、ブルネイなどは連合して、中国に対抗しようという動きが出てきた。東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は2002年「南シナ海行動宣言」に署名した。2009年中国が新しい行政区域「三沙市」を設立し、パラセル(西沙諸島)、スプラトリー(南沙諸島)、マックレスフィールド(中沙諸島)岩礁などを管轄下に置いた時、ベトナムはスプラトリー諸島の領有を明記した海洋法を制定した。中国はその直後、三沙市への軍事的配備を発表した。この海域でのベトナムのガス資源開発を妨害し、漁船の拿捕が頻発した。ベトナムは「行動宣言」を持ち出して、中国の動きを非難した。
 ASEAN諸国は国別では中国に対抗できない。中国の国内生産はフィリピンの32倍、ベトナムの59倍。そこでベトナムは10年、カムラン湾の港湾計画を発表し、米海軍に拠点の用意を表明した。11年には潜水艦6隻をロシアから購入すると発表。
 フィリピンは米軍の国内の基地使用など、米軍との同盟関係強化策の検討を始めた。
 ASEANは12年7月、プノンペンで開かれた外相会談で南シナ海問題について「行動宣言の中身を固め中国に対抗しようとした。しかし、議長国のカンボジアが中国に押えられて動きが取れなかった。中国にとって相手がまとまって“国際規範”などを振り廻されたら厄介。中国の表現に従えば「分別対待 各個撃破」が交渉の要諦であるという。
 中国はフィリピンのバナナを突如輸入禁止にしたり、嫌がらせをしているが、日本へのレアアース禁輸同様、このような振る舞いは明白なWTO違反であり、即刻提訴すべき事柄だ。
 フィリピンのデルロサリオ外相は3月訪日し「日米同盟やASEANの関係強化が必要だ」と述べた。また、「日本の集団的自衛権行使容認に伴い親米勢力が東南アジアで、もっと大きい影響力を行使してほしい。」「憲法が改正されたら日本との防衛条約も検討する」とも述べたという。東南アジア諸国の切羽詰まった立場が窺える。
 これに先立って1月、フィリピンが国連海洋法条約に基づき仲裁裁判所に提訴した。この裁判所は国際司法裁と違って“欠席裁判”でも白黒の判決を出すことで知られる。こうした動きで中国側の領有権が“不当”となる可能性があり、中国は目下、シンガポール、マレーシアを味方につけ、ASEANを黙らせようとしている。

                                                                                                                        (平成25年4月17日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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