参院選自民大勝
―政官寄り添う安定内閣更に進む―


理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 第2次安倍政権は参院選で大勝し、念願の“衆参ねじれ”を解消した。選挙中、社民党の福島瑞穂党首や山口那津男代表らが「政権の暴走を止める」とか「暴走させない」と絶叫していた。しかし第2次安倍政権の安定感は暴走せず、テーマを一つずつ俎上に上げて片づけて行く姿勢から生まれている。この内閣は政官がぴったりと寄り添う珍しく安定した内閣である。民主党政権時代、政治主導をはき違えた政治家の暴走が見受けられたが、いま、官僚たちは声を揃えて「やり易い」という。それは「方針を示してその先は任せてくれるからだ」という。人事についても党内から、ほとんど不満が洩れない。
 参院選前、国土強靭化法が成立したとき、長老の野田毅氏や二階俊博氏が「これで道路がバンバンできる」とはしゃぐ姿がTV放映された。これを見た菅義偉官房長官は二人に電話して「新規の道路は造りませんよ。ウソをつくことになりますよ」と取り消しを迫ったという。昔の派閥政治の時代の自民党からは、考えられない変りようである。
 国政選挙が終われば党と内閣の人事を刷新するというのが相場だ。この“しきたり”があったのは、人事を一新して支持率を上げるのと、党内不満の沈静化のためだったが、現安倍内閣では敢て人事を刷新する必要がない。人事をいじらない方が支持が続くだろう。
 安倍首相が選挙前に動くに動けなかった最大の問題はTPPである。TPPではコメ、酪農、牛肉など5品目の例外を求めると言ってきたが、「一切、手を触れない」ことなどあり得ない。「コメの800%近い関税は10年から15年でゼロにせよ」といった要求が出てくるはずだ。仮にこれを断ったとしても10年後にはコメ農家は激減しているだろう。零細なたんぼや耕作放棄地を集約するとか、株式会社への売却、賃貸を認める制度が不可欠だ。農協が実態的に独占している肥料や飼料の売買も自由化する必要がある。
 これには金融機関化している農協組織の改革が必要だろう。これは農業を捨てたり、縮小することではない。どこでも先進国は農業が発展している。日本で発展しないのはなぜかを解消し、障害物を取り除けばできる。
 次に消費税引上げ問題だが、消費税引上げは財務省が敷いた財政再建論である。安倍氏は財務省路線から脱却して、インフレ目標策をとった。基本的構想が全く違うのだから、最初から考え直した方が良い。2015年10月に10%に上げる予定だから、8%段階は見送って10%に引上げる際に現行5%の軽減税率を設けた方が良い。
 新聞各紙は中・韓外交の正常化をいっているが、拙速こそが、日本の中韓外交の失敗だった。いま、急いでいるのは向こう側である。首脳会談さえできれば成功と考えるからこそ、菅・胡錦濤会談のような土下座外交に陥るのである。憲法改正は議論をもっと深めよ。改正の前に安全保障基本法の制定が必要だ。
(平成25年7月24日付静岡新聞『論壇』より転載)
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