実現不可能な「北東アジア共同歴史教科書」
―日本と真逆にある中韓の歴史認識と価値観―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 韓国の朴槿恵大統領は14日、ソウルで演説し、日・中・韓3ヵ国で「北東アジア共同の歴史教科書」を作ることを提案した。日韓はこれまで2度にわたって、政府支援の歴史共同研究を行った。その度に韓国側が日本に“韓国側の歴史を共有することを求めて挫折している。竹島問題なども韓国の主張を日本の学校用教科書に記載することまで要求し、共同研究の場が国内向けの政治宣伝の場になってしまった。
 歴史には各国独自の史観があり、共通の教科書などできるわけがない。朴氏は「ドイツやフランスでできた」とか「日本はEUが統合に至った歴史を学んで欲しい」などとしきりに言う。中国も日本に歴史共同研究を申し入れて、日本も応じたことが2回ある。出席者によると、中国側は“公式見解”を押し通さないと、自らの地位が危なくなるといった趣で、日本の言い分など一切聞かないという。中・韓は共に中華思想の持主で“華夷秩序”を絶対視する。華夷秩序というのは自らが最も偉くて、そこから離れた者ほど、卑しい存在だとみる史観である。この華夷思想に対して日本人の尊ぶ価値は武士道だ。武士道は「相手のいやがることは言わない」、「潔い」、「恥」などだ。竹島や尖閣について、これまで遠慮がちで主張しなかった。政府がたびたび主張しないと国民の認識が薄れ、朝日新聞の大論客まで「竹島を韓国にやったらどうか」と言い出す始末である。
 外国向けの宣伝戦でも日本は遠慮がちで、一方の朴氏は外国に行っては日本の態度を悪く言い廻っている。こういうのを「告げ口外交」(Tale-bearer Diplomacy)といって、国際的には恥ずべき行為だが、世界に誤解をまき散らすこと甚だしい。
 そこで安倍政権は竹島の歴史や尖閣の歴史を放送や英語版のネットで発信することにした。ハーバード大教授のジョセフ・ナイ氏は「相手を刺激するから『日本は黙っていた方がいい』」と忠告するが、黙っていれば、中・韓両国は歴史を捏造し自分の所有にする主義なのだ。日本は国際司法裁判所で結着をつけようと韓国に申し入れているが、韓国は敗訴必至とみて応じようとしない。こういう現状を一つ抱えているだけでも共通の教科書などできるわけがない。朴氏は韓国側が宥和を求めている姿を世界に発信していると思っているようだが、世界は無知な大統領だと思っているだろう。
 EUが統合に向ったのはキリスト教という共通の価値観があってこそである。冷戦中、西側の一員として対ソ戦略に加担してくれたトルコはEU加盟を認められない。トルコの価値観はイスラムであって、キリスト教圏とは相容れないからだ。
 日・中・韓にも共通の価値観はない。中・韓は共通だが、日本とは真逆の価値観だ。1885年に福沢諭吉が脱亜論で「アジア東方の悪友を絶つべし」と言った頃と変わっていない。


(平成25年11月20日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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