教育行政のからくり
―日教組の政治操作を改善せよ―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 教育委員会制度について議論してきた中央教育審議会(中教審)が、首長を教育行政の最終責任者とする改革案を下村博文・文科相に答申した。教育委員会制度についてはここ何十年もの間、教育行政を無責任にしている元凶だと批判され続けてきた。
 大阪の橋下徹現市長は府知事に当選するや大阪が犯罪率、離婚率などの指数がすべてワースト5に入っているのは「教育が悪いからだ」と指摘した。就任早々、教育行政の改善に取り組もうとしたが「首長にそういう権限はない」と阻まれ、結局、国旗・国歌条例を制定し、違反者は処分される。さらに教員基本条例を制定し、教員の政治活動を国家公務員並みに禁ずる条例を制定した。橋下氏の問題提起は地方自治体に大きな波紋を与えた。市町村の財政の3分の1は教育に使われているのに、その部分について口を出せないのでは、首長の能力を十分に発揮できない。
 たまたま13年春に大津市で起きた中2男子の自殺事件は教育委員会制度の無責任さを白日の下にさらけ出した。当初、教育委員会は「いじめとは認められない」と発表した。しかし大津市長の越真美氏が「何もなくて自殺とは考えられない。いじめがあったから自殺したんでしょ」と再調査を命じて、いじめが原因だったことが判明した。
 しかし現行法では越市長が“再調査”を教育委員会に求めたこと自体が越権行為の疑いがあるという。
 教育委員は市町村長毎に原則5人で構成される。首長が候補者を毎年1名ずつ推薦して議会の承認を得る。教育委員長は委員の互選で選出され、教育行政の最高責任者となる。地方の名士といわれる人たちがなるのだが、細かい教育行政の専門家ではない。そこで教育の専門家である教育長を5人の1人に加える。この専門家が教育委員長になるか、実質的に教育委員会を牛耳るのが常だ。地方自治体にもよるが、日教組の選別を受けた専門家が、首長部局の教育長にのし上がってきた所は、押しなべて偏向教育が酷い。
 かつて80%以上もあった日教組の組織率は今や、20%台に落ちている。にも拘わらず、教育行政や教科書選定について日教組の影響力が強いのは、教育行政の肝心要の本筋を組合に握られているからと言っていい。
 大津市の教育委員会が端からもみ消しにかかったのは、教育長が教育委員長を庇ったように見える。が、真相は教育長が糾弾されると、背後の日教組組織にダメージを与えると恐れたのだろう。
 教育行政に首長が責任を負うことになると、選挙に当たって首長の教育への資質や考え方も考慮に入れなければならない。
 朝日新聞と毎日新聞はこの改革構想について“教育行政の政治化”だと反対のようだが、これまでの教育行政こそが“中立”に名を借りた隠微な政治操作だった。20%が教育全体を仕切るからくりを清算すべきだ。新しい世代には新しい教育が必要だ。

(平成25年12月25日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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