集団的自衛権行使容認を閣議決定
―米中の軍事力逆転に備え、日本は確たるメッセージを同盟国に示せ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 集団的自衛権の行使をめぐる自・公折衝は漸く決着がついた。安倍首相は遅くとも国会の会期(6月22日まで)内に新解釈を閣議決定したい意向だった。一方の公明党は年末まで決定を延ばせという。なぜそんなに長い期間が必要なのか不思議だが、学会婦人部を説得し、来年の地方統一選挙を有利に展開したいということのようだった。
 結局公明党は政府解釈に「歯止め」をかけて呑んだが、歯止めというのはさながら、儒学でいう「訓詁学」のようなもの。大勢を見ないで、目先の単語をとっかえ、ひっかえ変えたに過ぎない。公明党の「自民党へのブレーキ」も意味不明だ。
 そもそも集団的自衛権の解釈変更が必要になったのは、国際情勢の変化にどう対処するか、具体的に、外交・防衛政策を練り直す必要が生じたからだ。外界が不変なのに日本だけ軍事を増強すれば、周囲の国は不安になるだろう。公明党の人は外界が変っていることを認識せずに、日本の国内事情だけで防衛政策に口をきいている。その精神は「歯止めをかけた」というセリフに象徴されているが、軍事は黙っていれば膨張し、大砲は置いておくだけで発射するといった発想だ。
 人間の意志が変らなければ武器は暴発しない。社・共も同じだが、公明党は防衛態勢を考えるに当たって、外界の変化を凝視し、どうすれば攻撃を抑止できるかの視線で考える頭脳を持つべきだ。そうでなければ与党の資格がないと心得るべきだろう。
 国際秩序は均衡、協調、共同体の3つの概念で眺めて、重なり合った時に最も安定するといわれる。米ソ冷戦時代は東西2つの世界が睨み合って均衡していたから“平和”だった。
 その時代に比べて現在はどうか。
 冷戦に勝った米国はかつて3つの戦争を戦えたが、今は1つの戦争しかしないという。このため世界の警察官は軍備をアジア中心にリバランス(再編成)しつつある。ロシアは力を復活しつつあるし、中国は南・東シナ海を押えて、その先に太平洋の西半分を窺っている。日本は日米で組んで中国を封じ込めたいと思っているが、オバマ大統領は日本と組んで戦うより、中国との間に「大国関係」(中国側の用語)を結んで仲良くした方がよいと考えているようだ。米国は毎年5兆円ずつ10年間国防予算を減らしてオバマケアに使うという。一方の中国はここ10年以上、毎年5兆円ずつ軍事費を増やしている。10年先に米中の国防予算は逆転するかも知れない。その時、中国は尖閣どころか、沖縄も寄こせというほどの力を持つだろう。
 「日本と組んでいて損はない」とオバマ氏が判断できる条件を日本は提示するほかない。
 安倍首相は豪・NZ・パプアニューギニアを訪問して集団的自衛権の行使問題を説明し、皆から賛成された。中国、韓国を除いては日本の態度表明は喜ばれている。国際情勢の認識では一致しているということだ。

(平成26年7月16日付静岡新聞『論壇』より転載)

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