統一地方選前半戦の結果を読む
―中央集権体制では「地方創生」実現できず―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 今回の地方選の見どころは、大阪府・市議選で維新が府・市ともに第1党を維持したことだ。これを除くと統一地方選挙は年々さびれていくようだ。道県議選無投票で議員が決まったのが、全選挙区の33.4%も出た。各選挙区は投票に来る人が少ないというので、投票時間を繰り上げる傾向だという。この傾向は年々進んで全国平均で投票所の3割が繰り上げているという。
 無投票当選や、投票時間の繰り上げは地方選への関心が薄れている証拠だが、選挙民が悪いわけではない。私は横浜市に住んでいるが、神奈川県はこの横浜、川崎、相模原の三大都市で成り立っている。面積や行政の量からいっても、県に期待することはほとんどない。知事や県議に誰が選ばれようと、あまり関心がない。このような状況の中で、地方選に燃え上がれと言われても無理だ。橋下徹氏が大阪府と大阪市を合併する「大阪都構想」をぶち上げたのが当然の流れのように思える。
 増田寛也元総務相がまとめた『地方消滅』(中公新書)によると、「東京一極集中がこのまま進めば日本の人口は2050年には7割に減り、896の都市が消滅する」という。我々はこういう“地方消滅”の時代の中で漫然と生きていた。国民が地方選挙に関心を寄せなくなったのも、地方消滅というような衝撃的事実を自覚できなかったし、何をすべきなのかの意識もなかったからだ。
 取り敢えず、安倍政権は「地方創生」を唱えた。消滅の危機にブレーキをかけようというのだが、その決め手となる対策があるわけではない。これからみんなで考えようというに過ぎない。
 日本は明治以来、中央集権的統治機構でやってきた。当初は国の財源を地方へ配り、戦後は地方の首長は民選になり、地方も若干の自主財源を持つようになった。地方の不足財源は中央が地方交付税として配分した。配分に当たって心掛けたのが公平である。地方には「銀座」という名前の大通りが500もあったそうだが、この公平分配の結果、これらの銀座はまさに平等に、過疎とシャッター街になってしまった。
 ここから出てくる結論は、中央集権体制では地方は活性化せず、特色もないということだ。安倍首相が「大阪都構想」に興味を持っているのは、統治機構の改革こそが政治を活性化し、地方に独創性をもたらすのではないかと思っているからだろう。
 歴代内閣も地方分権の決め手として「道州制」を掲げてきた。区域は9つにしろ11にしろ道州制に向う下準備も何度か行われてきた。しかし中央集権という岩盤は一度も揺れたことはない。この統治機構こそが日本の官僚内閣制度を守る最後の砦だからだ。
 キャリア官僚を含めた国家公務員30万人。このうち霞ヶ関にいるのは僅か8万人。残り22万人は地方ブロック局に鎮座し、各県の行政や事業を監督する。県や大都市の建設部長や農政部長に出向している中央官僚は1700人に及ぶ。この体制を破ってこそ、地方の活性化が始まる。



(平成27年4月15日付静岡新聞『論壇』より転載)

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