「集団的自衛権行使容認は違憲」
―内閣法制局の論理破綻再び―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 「集団的自衛権の行使は違憲」と6月4日の衆院憲法審査会に招かれた憲法学者3人が口を揃えた。この中には自民、公明、次世代の党が推薦する長谷部恭男・早大教授まで入っていたから、自民党は味方に大砲を撃ち込まれたような騒ぎになった。場所は憲法審査会だが話題が目下焦点の安保法制に移ってしまったのは当然だった。野党は「集団的自衛権が行使できない以上、安保法制国会はとりやめた方が良い」となった。慌てた自・公両党は街頭に出て安保法制の正当性を訴えている。
 「集団的自衛権を持つ権利があるが行使はできない」というのは内閣法制局の一貫した主張だった。しかし「権利はあるが行使できない」というのは論理破綻だという主張も根強くあった。中曽根康弘首相も「内閣法制局が憲法条文の最終解釈権を持つのはおかしい。衆参法制局か最高裁が判断すべきだ」との持論だった。その理由は憲法41条に国権の最高機関は国会だ。その最高機関が行政府の代表として送り出すのが首相であって、その首相が各省を所掌する大臣を決める。その閣議決定が最高の意志決定機関だ。そこで安倍内閣は安保法制を閣議で一致して決めたのである。
 以上の見解に内閣法制局はとことん反対してきた。内閣法制局こそ官僚内閣制の元締めだと現職OBも確信しているらしい。月に1回程度、OBが集まって後輩達の仕事をチェックするほど上から下への結束は固い。
 安倍首相は第1次内閣の時、法制局が見解を変えるべきだと主張したが、法制局は長官をとり替えても次長が意志を継ぐと頑張った。第2次内閣でも法制局でも法制局の立場は同じだったが「権利と行使と別に考えることこそ国際常識違反と主張する外交官が現れた。国際法の専門家の小松一郎元駐仏大使で、この人には「国際法」の著書もある。そこで安倍氏は小松氏を法制局長官に抜擢して、安保法制化を進めた。残念なことに小松氏は国会の本格論戦を前に病に斃(たお)れて急逝した。そこで安倍氏は法制局長官の承認より「閣議決定」の方が重いという新型式に踏み切ったわけだ。
 民主党の野田政権時代、同様の理由で法制局を国会審議から排除したことがあるが、安倍氏と同様の考え方からだ。
 戦後の国会でおかしかった点は第1に政府委員制度を再導入したこと。これは民主党台頭によってようやく廃止された。大臣に代わって役人が答弁する制度で官僚内閣制度そのものの象徴だった。新憲法の主趣を無視して官僚が復活させたのである。
 人事院制度も政治家に人事をいじらせない主趣。前人事院総裁はこの制度改正に当たって閣議をボイコットして改正案を潰した。これも今回、安倍政権になって各省を通じて幹部600人の人事を内閣が握ることになって、官僚内閣制の病巣はあらかた潰された。今回の参考人選定は自民党憲法調査会の幹事の船田元氏が内閣法制局に人選を頼んだという。それが与党にとってはとんだ爆弾で法制局の最後の仕返しだったのだろう。弱体内閣なら吹っ飛んだところだ。


(平成27年6月10日付静岡新聞『論壇』より転載)

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