TPP重要5品目死守
―農業製品の「1兆円輸出」を目指せ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は日本の重要5品目(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、糖)を辛うじて守って妥結した。テレビ番組を見ていると、野党議員はコメの別枠輸入を認めたとか、牛・豚加工品の輸入を認めたから失敗だと追求している。
 今回、まとまった貿易圏は世界のGDPの4割を占める。5品目を死守して日本農業の発展があるのか大局を見て貰いたい。農協団体を動かす原動力となっているのは70万戸のコメ兼業農家だ。他の産品で800〜1000万円の収入があるのに対して、コメ兼業農家は450万円。このうち農業の収入は50万円程度である。
 日本がコメに800%もの関税をかけているのはかつては輸入阻止のためだったが、今はコメ農家の保護のためだ。しかし国内需要は96年の950万トンから、既に800万トンを切るところまで落ちてきた。コメの国内価格が高すぎるせいか、毎年8万トンずつ減る傾向を示している。
 日本人はコメが高いのは致し方ないと思っているが、実はコメの内外価格差は競争できるほどに迫っているのだ。2005年から中国のコメとカリフォルニア産のコメはどちらも1俵(60キロ)当たり、1万円弱で推移している。一方、日本のコメは1万5000円で推移し、2014年は1万2500円まで下がってきた。各農家に2万5000円ずつ下駄を履かせれば、自由化もできる勘案だ。それにかかる費用は1750億円。現行の4000億円の補助金よりは余程安くつく。中国産のコメとカリフォルニア米は14年には価格が一致している。
 第1次安倍内閣は「減反廃止」を打ち出した。額面通りに受け取れば、コメが過剰になって徐々に価格が下がるとみていたからだ。ところがその後とられたコメ政策は、エサ米を作る農家に10アール当たり、10万5000円を支払うというものである。これは主食のコメ価格と同額で、エサとして売れる分だけ農家は喜ぶという政策だ。日本の家畜はとんでもない補助金付きコメを食べているのだ。今年初め、主食用米の相場が1万2000円まで落ちたのに困った農協はエサ米を作る農家を優遇した。その結果、主食用のたんぼが減り、コメ相場は1万4000円程度に上昇した。
 こういうバカな農政を主導したのは農水官僚とJA全中である。安倍首相がJA全中の廃止に強く拘ったのは、農業政策を品目ごとに変えていくつもりだからだ。
 確かに牛・豚、乳製品の価格で圧迫された畜産農家には当面手を打つ必要がある。しかしコメの自由化をもたらせば農業全体が蘇生することは疑いない。農産物の輸出は3500億円程度だったが、安倍首相は「1兆円」の号令をかけている。あの小さなオランダが年6兆円の輸出をしていることを考えると、3兆円程度は夢ではない。日本特有の改良技術を持っていれば負けることはない。


(平成27年10月28日付静岡新聞『論壇』より転載)

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