アベノミクス第3の矢放つ
―「1億総活躍」国家を目指して―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍首相がアベノミクスの第3の矢として掲げたのが@GDP600兆円 A希望出生率1.8 B介護離職ゼロの3点である。少子化対策というのは小泉内閣の頃から設定され、以来引き継いで担当大臣が任命されている。最近は「男女共同」とか「拉致問題担当」を兼務させるようになっている。軽く見ているうえに、専属の役所を持たないから、少子化担当相はアイディアを「言うだけ大臣」に終っている。
 安倍内閣が少子化対策を「1億総活躍」の主項目に含め、介護離職ゼロと組み合わせて打ち出したことに本気度を感じる。これまでの少子化担当相は短期政権のもと任期も1年、専属の役所もないから何の実績もなく終わっている。このような問題を解決するのは力持ちで、専任の大臣がおり、長期政権でなければできない。
 安倍首相はその役に“子分役”の加藤勝信氏を抜擢した。出生率1.8の目標を達成するには、何よりも保育園、幼稚園、小学校と続く、幼児、子供の面倒を切れ目なく見てくれるシステムが必要だ。
 私事で恐縮だが私の長男夫婦が、東京の目黒区から私共の住む横浜にいきなり引っ越してきた。目黒区には保育園が少なく無認可の保育園などに預けると、月に15万円もするという。これでは母親の働く意欲が湧かない。
 一方横浜市は林文子市長が「待機児童ゼロ」を宣言し、実際に待機児童が消えたのである。しかしこれが喧伝されると、息子夫婦のように横浜に引っ越す若夫婦が増えるのだろう。市長は目下、保育園の増設に懸命になっている。保育園は11時間預けられることになっており、孫は目下、2歳。親が早朝と夕方、替り番こに保育園への送迎を行っている。3歳で幼稚園に行く子供は、11時間も預かってくれない。小学校に通うようになると、低学年は3時頃終り、その後の学童保育に入れない子もいるという。鍵っ子も不用心だという。放課後保育が保障されなければ、夫婦共働きはままならない。
 保育園、幼稚園、小学校低学年を通して預かってくれなければ、どこかの時点で、母親の方が退職することになる。いま、特に求められているのは母親の職場復帰である。
 ジャーナリストの分野では、全く男女の能力差は認められない。しかし採用時にはこじつけて、男女同数にしていた。こうしないと寿退職で会社の運営がおかしくなってしまう。
 幼児を育てている最中、両親の介護が必要になったら、即刻、介護施設が引き取るシステムも必要だろう。介護のために40、50歳代の現役が退職するようでは1億総活躍にならない。以上のようなことは、これまでにも散々言われてきたが、役所の縄張り根性のせいか、一貫することができなかった。しかし首相がその気になれば、制度の一貫性は可能だろう。これなくして1億総活躍はない。


(平成27年12月2日付静岡新聞『論壇』より転載)

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