JA全中に続き「農林中金」不要論
―小泉自民党農林部会長に期待―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 小泉進次郎氏の人気は安倍首相をも上回るほどだという。かつての田中真紀子氏のような人気かと思いきや、どうやら本物の人気なのである。今回の人事で小泉氏は自民党農林部会の会長に抜擢された。農業は謂わば曲がり角の産業で死に体になるか、活性化するか、困難な産業である。小泉氏は断固として活性化に向けて舵を切り、その方向は真っ当だ。
 農業の生産性が上がらない最大の理由は農業がすっぽりと農協系統に抱えられていることである。2月6日付の週刊ダイヤモンドが農業特集をやっており、農産物分野の経営比較が出ていて面白い。あるタマネギ農家の収支を10アール当たりで見ると、JA出荷と独自出荷の場合とでは雲泥の差がある。JA出荷の場合の所得は5万2062円、独自出荷では24万1500円と4.6倍の差が出る。これは農薬代6万1000円対1万円とか、肥料代3万8000円対3万円など、農協と比べると生産財が格段に安く仕入れられるのだ。
 実は農家はそれをわかっているが、農協に頼んだ方が横着ができるとか、系統外から買うと農協にバレて叱られるという事情がある。肥料会社は大半を農協系統に買って貰っている。個別の農家はそこから3割も安く買えるのだが、それがバレると会社は農協から叱られる。何故バレるかと言えば、JA全中が農家の経理の監査権をもっているからだ。
 先月、安倍内閣は全中の監査権を無くして民間、監査にすることにした。農協系統の根底を揺るがす大事件だったが、小泉氏はそれに加えて「農林中金などは不要だ」と断じている。その理由は90兆円に追い金を農家から集めながら、農業融資は0.1%足らずだという。それが「農林中金」を名乗るのはおかしいと小泉氏は言う。農中は資金を集めるために組合員の倍の準組合員を抱えている。農村全体が“農協ムード”に包まれて、自由な金融社会、企業社会が発達しない一因となっている。
 16年は選挙があるというので15年には主食用コメを1俵(60キロ)当たり、1万3145円と前年より9.7%高く設定した。第一次安倍内閣は断固として「減反廃止」を打ち出したにも拘らず、主食用米価の価格を何故引き上げられたのか。同じ主食用のコメを作っても、収穫の際エサ用に主食用を同じ価格で買い入れるのだ。主食用が10アール当たり10万5000円だと、エサ用にも同じ価格を出す。エサとして売れる分だけ主食用より有利だ。日本の家畜はいかに高い飼料を食っているか。この操作を「減反」と呼ぶのは詐欺行為以外の何ものでもないだろう。こういうインチキを糾すのは小泉氏のような先入観に捉われない青年でなければ不可能だ。主食米の価格を上げたために、外食産業は外米を混ぜる研究を始めている。
 こういうイカサマ政策の傍ら、企業家精神を持った農家が勃興し始めている。15年の農林・水産物の輸出は前年比21.8倍の7452億円で3年連続、過去最高を記録した。小泉氏の馬力で一段と飛躍することを期待する。

(平成28年2月10日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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