「国連女子差別撤廃委員会 最終見解」
―日本3つのキーワード消せず―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 国連の女子差別撤廃委員会は3月7日に慰安婦問題を含む日本に関する最終見解を発表した。この中でこれまで使ってきた「性奴隷」という言葉を使わず「慰安婦」と表現を変えたが、前回2009年の見解より慰安婦問題への言及量が大幅に増えた。最終見解では「慰安婦問題が(日本の)軍隊により遂行された深刻な人権侵害」と指摘。日韓間で「最終的、不可逆的に解決」したこと、日本側が10億円を支出することなどを一切無視した結論となっている。
 慰安婦問題のキーワードは@強制性 A性奴隷 B20万人――の3つである。先に外務省の杉山晋輔外務審議官が同委員会に出席して、軍隊の強制性は無かったことや「慰安婦狩り」については朝日新聞が「誤報である」と記事を取り消したことなどを説明した。しかし性奴隷や20万人はあり得ない数字であることについては否定しなかった。
 このためか3月10日に開かれた国連人権委員会で、フセイン人権高等弁務官が行った年次報告の演説では慰安婦について「日本軍による性奴隷制度を生き延びた人々」との表現がある。要するに国連の大勢の中では3つのキーワードが消えることなく通用していることだ。
 対韓強硬論者の中には「国連女子差別撤廃委員会や人権委員から脱退してしまえ」という意見がある。いくら主張しても誤った事実を宣伝するなら、関わらない方が良いと思ってしまうらしいが、こういう単細胞的発想は逆効果を招く。間違った評判が10倍になって国際社会に流布されてしまうだろう。そもそも3つのキーワードを流行らせたのは日本人の側なのである。@は吉田清治という“詐話師”と朝日新聞 AとBは日本の左翼弁護士と言われている。日本の左翼は自国を貶める言動を公然とする。常に中・韓の側に立つという信じ難い連中である。そういう状況の中で河野談話が作り出された。
 今回の安倍・朴日韓談話は河野談話を認めさせたという点で朴側の勝利だが「最終的、不可逆的に解決」という点は安倍氏のポイントである。但し韓国が「不可逆的」という約束を守ればの話である。
 日本側はこれまで国連や外交の場で慰安婦問題が取り上げられると「その件は河野談話で解決済みです」と答えることにしてきた。外務省はこの行動が3つのキーワードを固定観念にしてしまったと知るべきだ。朝日新聞の誤報がなくても「強制性」の証拠は見つからなかったのだし、人身売買の事実も立証されていない。20万人の根拠もない。会議の都度、大使ないしは外務省の高官が出席して、いちいち反論しておけば、国際的風潮は打ち消されないまでも、3点を纏めたクマラスワミ報告書は採択されなかったのではないか。安倍氏のポイントは日韓会談の内容を国際的に知らしめ、韓国が蒸し返すのを困難にしているが、誤りの“ファクト”を否定したものではない。


(平成28年3月16日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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