露呈された北朝鮮の抑止能力の欠如と
無いとは言えない米国の北朝鮮攻撃

 政策提言委員 矢野義昭
 北朝鮮は4月13日、「銀河3号」と称する長射程ミサイルの発射に失敗した。
 今回のミサイルの発射失敗の国内での政治的影響は少ないであろう。「失敗は成功の母」などと理屈を付けて、国民を納得させることはできる。むしろ新指導部にとっては、強くなりすぎた軍の権限を削ぐ良い機会になるかもしれない。
 しかし、軍事的には今回の失敗は大きな痛手となるであろう。米国はこの機に乗じて、北朝鮮に対し強硬姿勢を強めてくるであろう。特に問題となるのは3度目の核実験である。核実験用の穴は埋め戻され核実験の準備は整ったとの韓国の報道もある。もしも3度目の核実験の確実な兆候が把握されれば予防攻撃として、また実験が強行されれば懲罰として、米軍の精密空爆による攻撃がないとはいえない。
 その他の軍事的挑発についても、同様である。また韓国軍は、射程千キロ以上の長射程巡航ミサイルと射程300キロの弾道ミサイルを実戦配備していることを発表した。韓国軍にも報復能力はある。
 北の核実験や軍事挑発に対し、米韓、特に米国の軍事制裁の可能性はなしとしない。それは以下の理由による。
 一つは、ミサイルの発射に今回失敗したことで、北朝鮮が、少なくとも現時点では、米国本土に届く信頼性のある核ミサイルを保有していないことは明らかであること。しかしこのまま放置しておけば、数年後には再発射し、さらに能力を向上させ、いずれは大陸間弾道ミサイルの発射に成功するであろうとみられること。今の時点で北朝鮮の核ミサイル開発能力に打撃を与えておけば、大幅にその能力を削ぎ、開発を遅らせられる。
 開発能力の中でも、ミサイルは当面脅威度が低下したとしても核弾頭の開発は進んでいる。核実験を繰り返せば核弾頭の小型化は進み、その脅威度は増す。特に、ノドンやムスダンを実戦配備しているとみられることから、これらのミサイルの弾頭に搭載できる核弾頭は、日韓台、グアムなどの在日米軍と同盟国にとり直接の脅威となる。同盟国への核恫喝にも利用できる。当面優先すべき攻撃対象は核弾頭の開発阻止である。
 米軍はいま無人機の開発と運用に力点を置いている。有人機を使わなくても、ヘルファイアー搭載型グローバルホークと無人偵察機を併用すれば、精密攻撃は可能である。有人機を使えば、バンカーバスター(地下侵徹用特殊爆弾)の改良型で地下70メートルまで破壊できる。また韓国軍も、バンカーバスターを保有している。
 一般に地下の核施設は、発見が困難で位置の確定ができず、仮に空爆しても地下数百メートルにあれば破壊もできない。しかし地下核実験場は脆弱である。地上のモニター施設と地下の核爆発施設との間は、データを送るためのコードなどで連結され、連絡坑の埋め戻し箇所は偵察衛星などにより場所を特定できる。これらの施設は移動も秘匿もできない。この入り口近くの坑道とモニター施設を破壊すれば、核実験はできなくなり核弾頭の開発は遅れるであろう。
 特に現在準備が確認されている豊渓里(プンゲリ)の核実験場は、日本海に近く、日本海側からの攻撃に対し脆弱である。洋上から密かに巡航ミサイルや無人機を発進させ、奇襲的に攻撃することもできる。
 このように、目標は確認でき脆弱であり、しかもそれを破壊できる軍事的手段を持っているならば、米軍が軍事作戦により核実験阻止を試みることはありうるとみるべきであろう。
 欧米では、イランの地下核施設に対してイスラエルがいつ空爆に踏み切るか  が注目されているが、北朝鮮の核実験阻止のための空爆の方が容易であり、それだけ可能性も高いと言える。北朝鮮で成功すれば、イランへの重大な警告にもなりイランからも核開発問題での譲歩を引き出せるであろう。
 米国内の事情もある。米国はいま大統領選挙戦の最中にあり、共和党はオバマ政権が、今年2月の合意で北朝鮮に対し安易に融和策をとったことを非難している。失業問題も依然として深刻である。オバマ大統領としては、ここで北朝鮮に対し強硬策をとり成功させて、一挙に国民の支持を高めたいところであろう。
 特にオバマ政権は、ビン・ラディンの殺害では、無人機と特殊部隊を活用して成功した経験があり、現在のパネッタ国防長官は当時CIA長官として成功の立役者であった。再度同様の試みに出たとしても不思議ではない。
 今回のミサイル発射の失敗は北朝鮮の軍事態勢の弱点をさらけ出した。弱点をさらけ出せば、これまで成功してきた瀬戸際政策が逆にリスクを生むかもしれないことを、北朝鮮指導部はよく考えてみるべきであろう。

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