「中国は必ず沖縄に攻めてくる
 再び戦場としないために今やるべきこと」
防衛システム研究所代表
 松島 悠佐
 中国の海洋権益の拡大に向けた活動がますます活発になっており、周辺諸国とのいさかい が絶えない。
南シナ海ではベトナムやマレイシア等と、そして東シナ海ではわが国との間に確執が絶えず、中国の最近の行動は目に余るものになってきた。
 一昨年9月の中国漁船衝突事件の時のわが国の対応には、領土に対する主権という観点から毅然さを欠いていた。このような対応を続けると、やがて中国の領土・領海侵攻を招く結果になるだろうと危惧されたが、そのとおりになってきた。
 わが国は、排他的経済水域(EEZ)の管理を的確にするため無名の島に名前をつける作業をしているが、今年の1月尖閣諸島の4島の命名作業が明らかになると、尖閣諸島は中国の「核心的な利益」であり、日本が命名することは容認しないと言ってきた。
 中国が「核心的な利益」という場合は、「絶対に譲歩できない国家主権や領土」を意味する時であり、これまでは台湾やチベットに使ってきたが、尖閣諸島については領有権は主張していたが核心的な利益という言い方はしていない。
 中国としては既に尖閣諸島も台湾やチベットと同等の領土的な地位付けにおいていることが明白になってきた。
 2月には、沖縄県久米島沖合でのわが国の海洋調査に対して、「ここは中国の法令が適用される海域だから調査を中止せよ」と言ってきた。もちろんわが国の排他的経済水域での正当な調査であり、明らかな言いがかりである。
 東シナ海でのガス田開発、尖閣諸島の監視などを目的とした中国軍機の飛来も急増しており、沖縄の南西航空混成団による緊急発進回数(スクランブル)も昨年は過去最多を記録している。

 中国の領土意識は極めて独善的であり、台湾はもとより南西諸島もかつては琉球王国として中国の朝貢国であり、自らの支配下にあったとの認識であり、黄海・東シナ海・南シナ海も自国の海と考えている。
 日本に対しても隋・唐の時代からの朝貢国であり、今でも心底には中国の属領だという意識を持っているようである。

 中国はこの十数年来、海空軍力とミサイル戦力を飛躍的に強化してきたが、その目的は、エネルギー資源などの確保を目指して海洋への進出を果たすためであり、その必成の目標が東シナ海・南シナ海を中心とする海洋正面での権益の拡大である。
 中国海軍は、90年代までは沿岸近くの防護が主体の「沿岸防護型」であり、空軍もその頃までは内陸および沿岸部の要撃・防空が主たる任務だった。
 だがこの30年の間、改革・開放政策を進めた結果、閉鎖的な大陸国家から海洋に依存する通商国家へと変化し、海空軍力を背景に国防圏を遠距離の海空域にまで拡大してきた。
 目下、水上艦、潜水艦、航空機を増強し、対艦攻撃ミサイルや魚雷の強化で地域制圧の能力を高め、台湾への制圧能力、東シナ海・南シナ海での領土紛争への対処能力を高め、さらには西太平洋海域での米海軍の作戦を抑止する能力をも付け始めている。
 日本列島〜南西諸島〜台湾〜フィリピンの線を第1列島線と名づけ、この防衛ラインを確保できる軍事力を2015〜20年頃には整備できるだろうとの見方が一般的だが、一昨年あたりから艦隊を組んで西太平洋に度々進出している活動を見ていると、軍事力増強は計画通り進んでいると思われる。
 この態勢を基盤としてさらに宇宙開発や空母の運用など軍近代化を進め、二十一世紀半ば頃にはさらに遠方の海域において作戦可能な「情報化された近代軍」を完成するとの青写真を描いているようである。
 これらを総合的に観察すれば、経済的な繁栄を背景にして、国際的な通商国家に必要な「核・海洋・宇宙」の国家戦略を着実に進めているとみて間違いはないだろう。

 これに対して強い警戒感を示しているのがアメリカである。
 極東有事なかんずく朝鮮半島有事に際して、米軍は韓国支援のため東シナ海・黄海・日本海に戦力展開する計画を持っている。また、中東地区への戦力展開のためには、南シナ海からインド洋を抜けて航行の自由を確保しておくことは戦略的に不可欠であり、現在もこのルートを使ってインド洋への戦力展開、アフガンへの支援を行っている。
 東シナ海・南シナ海を中国に押さえられることは、アメリカとしては世界の安全保障戦略上容認できないだろう。

 東シナ海正面での米中の思惑を素直に見れば、わが領土南西諸島を巡って権益争いが起きるのは必至である。
 尖閣諸島が導火線になるかもしれないが、争奪の核心になるのは沖縄本島はじめ奄美など南西諸島の主要な島嶼であり、中でも沖縄は現在の軍事的な価値から判断すればその中心になることは明らかである。

 中国軍が「第一列島防衛線確保の作戦」を立てるとすれば、概要は以下のようになるだろう。
 「中国は海空軍ならびに第2砲兵軍(弾道ミサイル部隊)を以って、日本列島〜南西諸島〜台湾の防衛線を確保し、米軍の介入を阻止して、台湾・同海峡及び東中国海(シナ海)の行動の自由、並びに諸施設の安全をはかる。
 これがため、まず沖縄本島を奪取し、南西諸島を占領して第一列島防衛線以西の航空優勢・海上優勢を確保し、さらに同防衛線以東における警戒・哨戒態勢を確立する。
 防衛線に侵入を企図する敵機動部隊に対しては、航空機・中距離ミサイル・巡航ミサイルならびに海上火力によって制圧するとともに、沖縄〜宮古海峡に潜水艦を配備し東中国海への侵入を阻止する。
 なお、釣魚島(尖閣諸島・魚釣島)には警備部隊を配備し、東中国海における警戒態勢を確実にするとともに敵の使用を阻止する。」

 これは明らかに南西諸島への侵攻作戦であり、そうなった場合のアメリカの対応行動は、基本的に沖縄の防護体制を固め、沖縄の基地に攻撃を仕掛ける中国海空軍、第2砲兵軍を破砕し、中国軍の侵攻を阻止する作戦に出ることは明らかである。
 米軍は目下、航空・海上戦力を統合して遠距離からの打撃能力を向上させる計画(ジョイント・エアー・シー・バットル構想)を推進しているが、目下のところ中国軍を撃滅できる優位性は確保していると思われ、従って今は中国が攻撃を仕掛けられるような情勢ではない。
 だが、将来的に見て、アメリカの経済力が衰退し、国防費の削減・軍事力の削減を余儀なくされ,反対に中国がさらに軍事力を強化する事態になると、アメリカが優位性を保てなくなることも考えられる。
 このためアメリカは、アジア太平洋正面に軍事力の重点を移し、中国に対峙する姿勢を明確に打ち出してきた。 アメリカは引き続き沖縄を中心とした軍事体制強化を推進すると思われるが、万一沖縄に被害が及んだ場合に備えてグアム基地やオーストラリア・ダーウィン基地からの反撃態勢も準備し始めた。
 ここでしっかりと考えておかなければならないことは、アメリカは絶対に沖縄を放棄しないということである。仮に一時的に中国の手にかかることがあっても必ず取り返す行動に出るだろう。中国式に言えば、沖縄はアメリカにとっての「核心的利益」なのである。

 中国は案外警戒心が強く慎重な国だから、侵攻する時には十分な軍事力を整えて、勝てるという自信を持って行動を起こす。
 中国が沖縄に手を出すのは、沖縄の弱体化が進み、中国の軍事力が日米の防衛体制を上回ると判断した時であり、具体的に見れば、中距離弾道ミサイル・空軍力・海軍力を強化し、沖縄を制圧できる十分な戦力を確保し、空母の建造・宇宙衛星兵器の開発・サイバー戦の浸透などのよって、米空母機動群をつとめて遠方で阻止できる戦力を確保できた時だろう。
今後5〜10年の米中軍事態勢の推移をしっかり見て判断しなければならない。

 沖縄を再び戦場にしないための方法は一つしかない。
 強力な軍事力を配備し、「容易に奪取できない」と中国に思わせることである。中国は強い相手には向かってこない。強い相手にはまずその弱体化をはかり、硬軟両用の策を弄して相手の政治・経済・社会を混乱疲弊させ、弱ったところに攻撃を仕掛ける戦法を採る。
 その定石から見れば、さしずめ中国の目下の狙いは、沖縄から米軍を撤退させ、自衛隊の防衛力も減退させ、沖縄の軍事基地反対の県民世論を誘導し、政治・経済・社会の混乱を醸成して、中国が容易に侵攻できる条件を作ることである。
 沖縄が弱体化すれば中国軍が侵攻し、それを米軍が反撃して取り返すという戦争が起きることは必至である。このような視点に立てば、今沖縄で米軍基地反対を唱えている人たちの言動は、沖縄を再び戦場にする危険性をはらんでいる。その危険性は、沖縄の基地問題とは比較にならない程大きなものである。
 沖縄を再び戦場にしないために、わが国はいかに対応すべきだろうか。
 南西諸島はわが国の領土であり、当然ながら中国の侵攻に対して主体的な防衛体制をとらなければならないのだが、戦後長く続いてきた核兵器・戦略兵器の全部を米軍に依存する体質をすぐに是正するのも難しく、当面は米軍の支援を受けながら防衛体制を整備せざるを得ないだろう。
 だがその中でも、わが国が主体的に整備しなければならない作戦機能は次のようなものである。
 ・島嶼配備の陸上戦力、
 ・島嶼海空域警備哨戒能力、
 ・侵攻を阻止する海空戦力、ミサイル戦力、
 ・航空・海上機動能力、
 ・島嶼への補給能力
 ・島嶼領域、機動路、輸送路の防空能力
 ・敵基地攻撃能力
どのような部隊・装備をどの程度保有すべきかは、防衛省・自衛隊に防衛力整備の専門の機関があるので、彼らに任せればよいことだろう。彼らが米軍と調整して必要性と可能性を按配しながら具体的に決めることになるが、国家としては人と物を確保するために必要な財源を確保し提供することが必要となる。
 最小限の南西諸島防衛体制を整えるだけでも、相当の財源と期間が必要になるだろう。最近やっと整備が完了したミサイル防衛システムを例に考えれば、数個のイージス艦とペトリオットミサイルを整備するだけで、5〜6年掛かりで1兆円を超えている。
 南西諸島の防衛体制強化には少なくとも数兆円は掛かるだろうが、これらの島々を戦渦から守り、沖縄を再び戦場にしないための投資なら高いものでもない。
 時間もそれほど余裕がある訳ではない。中国の最近の活動を見ていると近々行動を起こす可能性がある。中国がまず仕掛けてくるのが尖閣諸島への侵攻だろう。
 尖閣諸島は現在わが国の支配下にあり、海保が巡視船による警戒態勢をとり、海上自衛隊も訓練名目でP-3Cによる警戒を行っているが、いかにも手薄である。
 手薄なところにじわじわと攻め寄ってくるのが中国の常套手段であり、警戒が必要である。
 領域・権益の問題での中国の手法は、話し合いが先ではない。まず実行支配しそれを背景にして自らの要求を突きつけるのが手法である。それは南シナ海の西沙諸島・南沙諸島の占領を見ても分かることであり、実行支配を重ね自国の旗を立て、それから交渉に応じ、「俺の領土に何故けちをつけるか」と言う態度に出る。
 しかも、それに至るまでの手立ては時間をかけてじっくりやり、国際的な批判をうまくかわすことにも長けている。
中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1970年ごろであり、既に40年前である。その後1992年に自己本位で「領海法」を公布し国際的に宣言してから20年も経っている。
 10年ほど前からは、中国海軍情報収集艦が南西諸島〜硫黄島の海域で海洋調査を開始した。
最近では尖閣諸島付近での調査活動には事前通報もせず、海上保安庁の巡視船が中止を呼びかけても無視して調査を続行している。
 自国の領土という認識以上に、最近では核心的利益とまで表現してきた。
 中国の調査は表向きには「科学調査」と称してはいるが、潜水艦航行や機雷敷設のための基礎的な海中海底諸元、例えば水深・潮流・水温・塩分濃度・音波伝播障害などの軍事的な調査が行なわれていることは明白で、既に相当の情報が掠め取られていると思われる。
 中国は四周の情勢を見るのには非常に慎重な国だから、ずっと日本の対応を見ており、わが国は「相手を刺激しない。無用の混乱を避ける」という腰の引けた対応を繰り返してきたことは、中国から見ればあたかもわが国が主権放棄しているようにも見えるだろう。
 結果として、中国は活動をエスカレートさせ尖閣諸島実行支配に動き出す気配を見せてきた。それが、「核心的利益」という表現に現れている。

 尖閣諸島を中国に先取されないためには、自国の領土問題としてもっと毅然とした対応をしなければならない。少なくとも無人島のまま放置してはいけない。
 一番望ましい態勢は、警戒に任ずる自衛隊や海上保安庁の機関が常駐することだが、急にそうすることに内外の抵抗があると考えるのなら、中国がやってきたように少し時間をかけて実行支配をより鮮明に打ち出すことが必要である。
 具体的な施策としては、尖閣諸島周辺での海洋調査を頻繁に行い、天然ガス田の試掘・採掘を進め、尖閣諸島を給油基地、補給整備基地として活用することなどが最もやりやすい実行支配ではなかろうか。
 かつて中国が東シナ海で天然ガス採掘を進めている際にも、わが国もそれに合わせて大陸棚調査を開始し試掘をするべきだとして、2005年には中川昭一経済産業大臣(当時)が帝国石油に試掘権設定を許可したこともあるのだが、その後二階大臣が引き継いでから、まず話し合いが大事として、摩擦を避けるために試掘許可を凍結しそのままの状態が続いている。
 中国との間で領土問題を進める場合には、まず実行支配をすることが必要である。わが国が先に手をつけると、激しく反論はするものの、わが方に相当の防護力があれば手出しをすることはないだろう。
 だが、仮にわが方の防護力が僅少なものだと武力行使してくる公算が高くなる。
 現在の態勢を考えれば、政府が意を決して自衛隊の戦力を結集すれば、中国に手出しをさせずに尖閣諸島の実行支配を広げることは不可能ではないだろう。
 逆に、尖閣諸島に中国が先に手を下した場合には、後で取り返すのは至難のことである。韓国に盗られてしまった竹島と同じ状態になり、中国との全面対決の決意をもって力ずくで事を起さなければならないが、その場合の戦勝の帰趨はわれに有利とはいえない。
 東シナ海、特に尖閣諸島周辺は権益の争いが渦巻いている海域であり、日中で合意したような「協力と友好の海」ではない。
 わが国はもっと領土保全という意識を高め、中国の侵攻意図に警戒感を強めるべきである。
 中国の戦略に大きな変化があり得るとしたら、それはまもなく新指導層が実権を握った後のことだろうというのが大方の見方であり、沖縄を再び戦場にしないために心して対応しなければならない。
 
                                              (2012・4月記、JBPress掲載記事から転載)


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