日印連携の戦略が必要だ!

 「海洋安全保障研究会」研究員 長尾 賢
 日印の安全保障面での連携が深まりそうである。すでに日印次官級の外務・防衛2プラス2対話も実施されるようになり、日米印戦略対話も行われ、昨年から毎年、海軍の共同訓練が実施されるようになった。そして、安倍首相は海外で論文を発表、日米豪印を柱とする「安全保障のダイヤモンド」構想を明らかにした。インドは日本の安全保障にとってどのように役立つのだろうか。以下、三つの可能性がある。
 一つは、日本と中国の領土紛争に貢献し得ることである。中国は日本だけでなく、インドや東南アジア等、多くの周辺各国と領土問題を抱えている。だから、中国からすれば、同時にすべてに対応するのではなく、一つ一つ対応したい。中国は、インドと緊張が高まっているときは、日本とは緊張を高めたくないのである。逆にいえば、日本とインドが連携すれば、中国は、日本とインド両方に手を出し難くなる。単にタイミングを合わせるだけでなく、具体的な方策も学び合うことで、中国に対する有効な手段を構築し得る。
 二つ目は、日本のシーレーン防衛に役立つからである。日本のシーレーンは、例えば中東から原油を輸入する場合、インド洋から南シナ海を通って日本に来る。インド洋や南シナ海は遠く、日本だけでは守れない。だからこそ、沿岸国との連携が欠かせない。
 インド洋においては、アメリカ海軍とインド海軍が圧倒的なプレゼンスを示してきた。しかもインド海軍は急速に増強中である。インド海軍と協力してこそ、日本のシーレーンを守ることが出来る。
 南シナ海についてはどうだろうか。現在、南シナ海は危険な状態になりつつある。中国は強圧的な態度をとって治安機関の船を派遣し、南シナ海が自らの海であるという主張を誇示している。ベトナムやフィリピンはこれに反発し、アメリカは両国を支援している。しかも、このまま状態が悪化し続けると、東南アジア地域は米中のパワーゲームの舞台になってしまうかもしれない。
  冷戦時代、米ソ両大国のパワーゲームの舞台となったのは中央ヨーロッパだった。ドイツは東西に分かれ、プラハの春、ハンガリー動乱、ポーランドの民主化運動等起こり、米ソがそれぞれ支援して争った。当時の中央ヨーロッパの特徴は、戦略的重要で、小国に分裂し、大国に囲まれていたことといえる。
 東南アジアをみると似た特徴がある。シーレーン上に位置し、天然資源が豊かで、戦略的に重要である。10カ国の小国に分裂し、日米中豪印といった大国に囲まれている。米中のパワーゲームの舞台になり易い条件がそろっている。
 パワーゲームが激しくなると、日本のシーレーンも安全ではなくなる。だから、日本としては東南アジアに安定してほしい。東南アジアに一つにまとまってほしいし、強くなってほしい。だから日本は戦後、東南アジア諸国の治安機関を支援してきたのである。
 そこにインドが台頭する。実はインドは、東南アジア諸国の軍隊を訓練してきた。ベトナムの潜水艦部隊の訓練、タイの空母部隊の訓練、マレーシアの空軍の訓練、ミャンマーへの武器輸出、インドネシア軍の訓練、シンガポール軍への訓練用・兵器開発用施設貸出等である。もし日印が連携して支援すれば、東南アジア諸国の軍隊も治安機関も強くなる。これは日印、東南アジア諸国すべてにとって利益になるのである。
 三つ目に、日印が連携しつつある理由を述べるとすれば、それは日米の同盟関係に資するからである。なぜなら、今、アメリカは同盟国・友好国の協力を必要としているからだ。
  冷戦後、アメリカ海軍の艦艇保有数は大幅に減った。1990年にアメリカ海軍は600隻もの艦艇を保有していたが、今はその半分になった。その内、満載排水量3000トン以上の水上戦闘艦(ここでは仮に大型水上戦闘艦と呼ぶ)の数は230隻から101隻まで減っている。理論上、力の空白が生まれた状態といえる。一方で中国海軍の艦艇は増加している。同じく大型水上戦闘艦の数だけみれば、16隻から40隻に増えている。つまり昨今、中国が南シナ海で強圧的な態度をとっているのは、このようなミリタリーバランスの変化を反映したものである。つまり、アジアを安定させるためには、この力の空白を埋めるのが急務である。
  日本とインドは、この力の空白を埋める候補になり得る。日本は戦後、強い戦力を保有していたが、積極的に運用してこなかった。一方インドは、大規模な軍備近代化の最中であり、日々、急速に強くなっている。インド海軍の大型水上戦闘艦の数は2000年に19隻、2012年に21隻であるが、2013年には26隻に増える。現在45隻建造中で、将来、空母3隻、原潜4〜5隻の体制が整うとみられている。そして、2012年12月インド海軍参謀長ジョシは、もし南シナ海で、例えばインドとベトナムが共同開発する石油施設等が脅かされるようなことがあれば、艦艇を派遣すると述べた。
  以上から、日本の安全保障にとってインドは非常に重要であるといえる。ただ、最後に指摘しておくべきは、日印連携は長期的な展望が必要なことである。10年後、20年後、日米の力がだんだん落ちていくのに対して、インドはより強くなる。その時でも、日印連携は、日印双方にとって力を存分に発揮できる関係であるべきである。2007年、安倍首相はインド国会で「強いインドは日本の利益であり、強い日本はインドの利益である」と演説し、拍手喝采を浴びた。本当にそうなるためには、日印が世界で担う役割について、長期的な展望をふまえた戦略が求められているのである。

                                                                                                                                                       

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