軍事作戦中に銃弾が尽きる怖さを知らない人達へ
−南スーダンの韓国軍部隊へ自衛隊が1万発提供−
政策提言委員  西村 金一

 2年前に独立した南スーダンでは、昨年12月、現大統領の出身部族ディンカ族(政府軍)と解任された元副大統領が属するヌエル族(反政府武装勢力)の対立が起き、国内14か所で戦闘や暴動が発生し約500人が死亡した。また、国連南スーダン派遣団(UNMISS)に派遣されている米軍のオスプレイやインド軍、ネパール軍の基地も襲撃を受けた。そして、韓国軍が宿営するボル市に、1000人以上の武装勢力が近づいているとの情報があった。
 自衛隊の井川隊長は、韓国軍から、「現在、1万5000名の避難民がいる。守る部隊は韓国部隊のみである。周りは敵だらけで、弾薬が不足している。ぜひ貸してくれないか」という差し迫った要請を受けた。韓国軍約280人は、3倍以上の敵と交戦する可能性があったのだが、所持している銃弾数が「1人当たりたったの15発」だったらしい。
 韓国軍と同じ5.56ミリ小銃を保有しているのは自衛隊しかなった。そこでUNMISSと韓国軍は、日本政府に銃弾の提供を要請した。日本政府は、UNMISSに参加している自衛隊の弾薬1万発を国連の要請で無償提供することを決めた。弾薬は国連を通じ、現地の韓国軍に提供された。これらの一連の行動は、国連PKOのROEに従ったものと推察され、国際法上の問題はない。日本政府は、「今回の措置は緊急事態に対応するものであり、武器輸出3原則の例外とする」とした。
 注目するのは韓国軍兵士1人が所持する銃弾の数だ。15発とは、極めて短時間に使い切ってしまう弾数だ。その弾数では避難民や自分達の命を守ることはできない。日本側が提供した銃弾は約1万発、それは兵士1人当たりに換算すると約35発、手持ちと合計すれば50発になる。武装勢力と交戦すると、その攻撃を何度か阻止することが可能だ。
 実際、韓国軍は武装勢力との交戦には至らなかった。しかし、韓国軍指揮官は、1万発の銃弾提供を受ける前には、交戦中に銃弾が尽きて、部下約280人と1万5千人の避難民の命を守れず、韓国国家に対し不名誉な結果を招くことになる恐怖を感じたにちがいない。
 私は、この時の韓国軍指揮官の気持ちを察すると、この1万発で家族や愛する人に見送られてきた部下達と死の恐怖から逃れてきた難民を守れる、任務を達成できると安堵したと思う。このような韓国軍指揮官の思いは、韓国政府に伝わり、日本への謝意として現れるものと思っていた。
 ところが、私の予想と異なり、韓国紙の朝鮮日報は、「日本に『集団的自衛権』の口実を提供した韓国軍の無能ぶり」とする社説を掲載した。また、韓国政府は、「予備を確保するため一時的に借りた」「緊急性はなかった」などと虚偽の説明まで行った。
 交戦する場合、銃弾の提供は食料などの物資提供とは異なる。兵士や避難民の命を守れるのは銃弾でしかない。多数の死者を出してから銃弾の補給を受けても役には立たない。 
 韓国の政府やマスメディアが、「自国から派遣された兵士が銃弾が足りずに感じた死の恐怖」や「提供を受けた銃弾の重要性」がわかっていれば、このような筋違いの報道はなかったはずだ。軍事作戦中に銃弾が尽きる怖さを知らず、何かにつけては日本を非難する人達が、「韓国と日本の関係を改善するチャンス」を「対立の話」にすり替えてしまった。

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