 ■CSIS|Center for Strategic and International Studies（戦略国際問題研究所）」寄稿
原文（英文）PacNet #12 - China's anti-Japan campaign
http://csis.org/publication/pacnet-12-chinas-anti-japan-campaign
（和訳）
中国の反日キャンペーンは、品位の限界と地理的な限度を超えた。安倍晋三首相が12月に靖国神社を参拝して以来、中国は安倍首相を中傷し日本の国際的な地位にダメージを与えるために、自国のメディアと在外の外交資源を最大限に動員している。もしこれが続くならば、このキャンペーンは日本をある程度傷つけるかもしれないが、中国自身に対しても強烈な反動となってはね返ってくるだろう。
現在の日中関係を理解するには、これを歴史的な視点におくことが有益である。日本と共産主義中国との国交正常化は、1972 年の日中共同声明によって実現された。この声明は、毛沢東主席 周恩来首相と田中角栄首相の先見の明と強いリーダーシップが結実したものであった。声明の前文では、「両国は一衣帯水の間にある隣国であり、長い伝統的友好の歴史を有する」と宣言している。日本と中国は、元来共存と協力を運命づけられた関係にある。両国が一緒になれば莫大な利益を両国の国民にもたらすことができるし、東アジアさらにはそれを超えて平和と繁栄をもたらすことができる。。
1974 年から1976 年の間、私は若い外交官として北京に在勤した。文化大革命の末期を目撃した。中国の共産主義レジームの建国の父、毛沢東主席、周恩来首相、朱徳将軍の3人の葬儀を見る機会を得た。「四人組」が打倒されたことを武漢で目撃し、これを最初に報告した外国人となった。これにより、文化大革命中に批判の標的となり紅衛兵と毛沢東によって迫害された鄧小平が、対抗する者なきリーダーとして中国の手綱を取ることとなった。鄧小平は政治的には共産主義独裁政権を維持しながら、一種の国家管理の資本主義を導入した。外交の面では、「韜光養晦」をスローガンに中国の外交政策および軍事力強化策をリードした。以来、中国は、中国国民のみならず日本を含む近隣諸国にも貢献をもたらすめざましい経済発展を遂げた。彼の指導の下で、日本との平和友好条約が1978 年に調印された。以来、日本は、中国の経済発展、特にインフラ建設のために巨額のODAを提供することで支援した。急激な軍事支出やその透明性の欠如にもかかわらず、中国の「平和的台頭」は近隣諸国を警戒させることはなかった。
江沢民が国家主席に就任すると、「愛国教育」の名の下に実体は反日的な教育を奨励したため、日中関係は急速に悪化した。彼の後継者の胡錦濤政権下では多かれ少なかれまともな関係にあったが、習近平は、「韜光養晦」という鄧の訓戒を放棄した。彼は、自分の夢は往年の偉大な中国を復活させることにあると宣言した。中国は、強大になった軍事力を背景に、東シナ海の尖閣諸島および南シナ海の南沙、西沙諸島を武力をちらつかせながら脅かし、東アジアの現状に挑戦し始めている。
安倍政権下の日本に対する中国の非難の中心テーマは、2点である。ひとつは、中国が「日本の軍国主義復活」と評するものである。もうひとつは、安倍首相が「歴史の修正主義」によって第2次大戦の勝利国によって押し付けられた秩序を変更しようとしているとの言いがかりである。
中国は、前回のように中国の大衆を扇動し反日行動に走らせると、自らの独裁政権に対する反発に転ずる可能性のあることを危惧し、今回は第2次世界大戦の同盟諸国に訴える道を選んだ。中国は、安倍首相は第2次世界大戦後のレジームへの挑戦者だと断言することによって、日本に対する国際的な圧力を動員しようとしている。さらに、中国は、日米同盟と日韓関係の間にくさびを打ち込むことを意図している。
しかし、国際社会においては、中国の反日レトリックが聞き入れられることはないであろう。朴槿恵大統領指導の公然とした反日政権と日本についての否定的な描写で知られている韓国メディアがリードする韓国は例外として、それ以外の世界の国々は、反日キャンペーンに加担することはないであろう。中国の行きすぎた行動は、中国自身に跳ね返ってくる可能性すらある。中国の国益に対してマイナスに働くだろう。中国の軍事費は過去20年間に大幅に伸長し、この期間、毎年二桁で増加してきた。相変わらずその軍事支出には透明性の欠如が続いている。対照的に、日本の防衛支出は、GDPの1パーセント前後という最小限のものであり、10 年間で実質的には6 パーセント減少している。中国の軍事支出は、核や攻撃用ミサイルシステムを含む攻撃兵器に集中する傾向がある一方、日本の防衛支出は、日本が自らに課した「専守防衛」政策を反映し、防御兵器にのみに向けられている。
中国共産党政府と強力な軍部は、その言動を通じて、これらの強化された能力を日本や東南アジア諸国などの近隣諸国に対する領土奪取のために使用する意思があることを明らかにしている。
こうして見ると、2 つの国のうちいずれが確立された国際秩序を壊そうとしているか、明らかである。中国による脅威の増加は、すべての国が何十年も受け入れてきた現状を不安定にするおそれがある。中国は、この地域での覇権への衝動に駆られ、米国に対して、世界情勢を米中2国で管理することを目指した「新しいタイプの大国関係」を提唱している。一部の中国の軍事指導者とオピニオン・メーカーは、太平洋を東と西に分割し、前者を米国の支配下に、後者を中国の支配下に置くことすら提唱している。米国がこの餌に食いつくことはないであろう。他方、インドを取り囲むような形で「真珠の首飾り」戦略を推進し、パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマーのようなインド洋沿岸国で港湾施設を建設することにより拠点を確立しようとしている。
日中平和友好条約を締結する交渉の過程において、ソ連を警戒した中国政府は日本政府に対し、条約の中に「反覇権条項」を入れることを要請した。日本政府はこの要求にしぶしぶ同意し、「反覇権条項」は、条約の第2条として導入された。第2条は、「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。」と規定している。
今日の中国の拡張政策は、まさにこの条約の文言と精神を明確に裏切っている。
安倍首相は靖国神社を訪問した際、明治維新前後の内戦から第2次世界大戦までに国家のために命をささげた兵士や民間人の鎮魂のために祈ったことを明らかにした。安倍首相は、日本は決して再び戦争をしないと心から誓った。約 500 万の日本人が毎年靖国神社を参拝するが、彼らは戦犯のために祈る意図はない。彼らはアーリントン墓地を訪問するアメリカ人などと同じ精神と善意を持って靖国神社を参拝するのである。
中国は、日本の「軍国主義」復活を批判する。しかし、第2次世界大戦後、中国が近隣諸国との武力紛争を起こしてきた一方、日本はあらゆる国家に対していかなる武器も使用しなかった。朝鮮戦争中、中国は人民解放軍を動員して朝鮮半島に送り、韓国軍と国連軍と戦った。1979年には、中国はベトナムを攻撃した。中国の人民解放軍の兵士は、定期的に北東インドのアルナーチャル・プラデーシュ州と北西インドのカシミール地方のインド領域に侵入してきた。中国の公船たる海洋監視船は、ほとんど毎日のように尖閣諸島の日本の領海および接続水域を侵犯している。彼らはまた、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイに近い南沙および西沙諸島に対する領有権を主張して南シナ海でパトロールしている。中国初の空母である「遼寧」も、いずれは隣国に対して圧力をかけるために使用するようだ。日本を含む近隣諸国は、中国が攻撃する口実を与えないように最大限の自制を行っている。
中国は、世界史の中でも偉大な国の1つであると、私は思っている。習近平主席は、かつての「中華秩序」の復活という夢を実現させると述べている。しかし、私は、中国の拡張主義とアジア太平洋地域での覇権への衝動はこの夢の役には立たないと固く信じている。事実、これらの行動は、中国の現在と将来の友人を遠ざけ、その反感を買うだろう。中国の反日キャンペーンは、極端に歪めたデマゴジーによって国際社会において日本を孤立させようと意図している。しかし、世界の諸国は、第2次世界大戦以来、民主主義と人権を尊重してきた、遵法精神あふれる日本は、最も平和を愛する国の1つであることを知っている。逆に、中国は、自国の人々の人権すら侵す全体主義レジームである。
もし中国が真に偉大な国家となりたいのであれば、その指導者たちは、近隣諸国を軍事的に征服することによって最も大きな領土を獲得した清王朝の例に倣うのではなく、文化、科学技術、宗教面での偉大な成果によってシルクロード沿いの諸国と日本を引きつけた、唐王朝の例に従うようアドバイスしたい。
私の夢は、習近平の夢とは異なる。私は中国が、ソフト ・ パワーによって尊敬され賞賛される偉大な国家(great nation) になることを見たいと思う。私は、近隣諸国が恐怖で、また国際社会が疑念で接せざるを得ないような、単なる大国（big nation）中国を見たくはない。
（原文）
Hiroshi Hirabayashi is president of the Council on East Asian Community and president of Japan-India Association. These comments represent the personal views of the author.
China's anti-Japan campaign has crossed the limits of both decency and geography. Since the visit by Prime Minister Abe Shinzo to Yasukuni Shrine in December, China has fully mobilized its media and diplomatic resources overseas to vilify Abe in an attempt to damage Japan's international status. This campaign, if it continues, may hurt Japan to some extent but it could backfire against China itself.To understand the current Japan-China relationship, it is useful to put it in a historical perspective. The normalization of relations between Japan and Communist China was made possible by the Joint Statement of 1972. The statement was the fruit of farsightedness and strong leadership by Chairman Mao Zedong and Premier Zhou Enlai and Prime Minister Tanaka Kakuei of Japan. The preamble of the statement declares that the two countries are "separated only by a strip of water with a long history of friendship." Japan and China are destined to coexist and cooperate. Together they can bring enormous benefits to the two nations and uphold peace and prosperity in East Asia and even beyond.I worked in Beijing as a young diplomat from 1974 to 1976. I witnessed the last years of the Cultural Revolution and had the chance to see the funerals of the three founding fathers of the Chinese communist regime: Mao, Zhou Enlai, and Gen. Zhu De. I was one of the first foreigners to report on the fall of "the Gang of Four." Deng Xiaoping, a target of criticism during the Cultural Revolution and persecuted by Red Guards and Mao himself, then took the reins of China as uncontested leader. He introduced a sort of state-managed capitalism while maintaining a communist dictatorship. On the diplomatic front, he led China's foreign policy and military development with the slogan "Hide our brightness and bide our time." Since then, China enjoyed remarkable economic development that benefitted the Chinese people and their neighbors, including Japan. Under his guidance, the Treaty of Peace and Friendship with Japan was signed in 1978. Since then, Japan aided China's economic development, especially infrastructure building, by providing a large amount of Official Development Assistance. Despite a rapid increase in and lack of transparency regarding military expenditure, the "peaceful rise" of China did not alarm its neighbors.With the tenure of Communist Party Chairman Jiang Zemin, Japan-China relations plummeted as he encouraged "patriotic education," which was interpreted as a euphemism for anti-Japan education. After more or less normal relations under his successor Hu Jintao, Xi Jinping seems to have abandoned Deng's admonition to "bide our time." He proclaimed that his dream was to regain the great China of yesteryear. With increased military might, China has started to challenge the status quo of East Asia with threatening claims on the Senkaku Islands in the East China Sea and the Spratly and Paracel islands in the South China Sea. China's denunciation of Japan under the Abe administration centers on two themes. One is what China describes as a "revival of Japanese militarism." The other is "historical revisionism," by which Abe allegedly intends to change the post-World War II order imposed by the "victorious powers." Rather than mobilizing the Chinese public and invoking anti-Japanese riots, which would risk a backlash against the communist dictatorship, China has opted to appeal to the allied powers of WWII. By presenting the Abe administration as challenging the post-WWII regime, China intends to mobilize international pressure on Japan. In addition, China wants to drive a wedge into the Japan-US alliance and between Japan-ROK relations.China's anti-Japan rhetoric appears to be falling on deaf ears, however. No country has joined the anti-Japan campaign, except South Korea, which is led by the openly anti-Japan administration of President Park Geun-hye and a national media known for its negative portrayal of Japan. China's excessive actions may backfire and will, in any case, work against its national interests.The weakness of China's anti-Japan campaign stems from the fact that the rhetoric betrays the facts and contrasts sharply with how China has behaved. China's national military spending has grown significantly in the past 20 years, with double-digit increases every year during this period. Meanwhile, Beijing's military expenditure continues to lack transparency. By contrast, Japanese defense expenditure has been minimal, at around 1 percent of GDP and has, over the course of a decade, in fact, decreased by 6 percent. While Chinese military expenditure tends to concentrate on offensive weaponry, including nuclear and offensive missile systems, Japanese expenditure has been directed only to defensive weaponry, reflecting a self-imposed "defense only" policy. China's communist government and its powerful military establishment have made clear, through words and deeds, their intention to use these increased capabilities to pursue and eventually secure territorial gains against neighboring countries, including Japan and Southeast Asian states. It is clear which of the two nations is moving aggressively against the international order. China's increasing threats tend to destabilize the status quo, which has been accepted for decades by all countries. In a drive for regional hegemony, China has been proposing to the US a "new type of great power relationship" to manage world affairs. Some Chinese military leaders and opinion-makers have gone so far as to propose the division of the Pacific Ocean into east and west, with the former under US dominance and the latter under Chinese dominance. The US will not take the bait. China is also working to establish posts in the Indian Ocean in countries such as Pakistan, Sri Lanka, Bangladesh and Myanmar, as part of the "the String of Pearls" strategy, to encircle India with the ports of China's construction. During the negotiations to conclude the Treaty of Peace and Friendship, the Chinese government requested that Japan accept an "anti-hegemony clause" in the Treaty as a warning to the Soviet Union. The Japanese government acquiesced to this request and the "anti-hegemony" clause was introduced as Article 2 of the Treaty. It stipulates that both countries would not seek hegemony in Asia-Pacific region nor in any other part of the globe, and that both countries would oppose hegemony by any third party. China's expansionist policy of today in Asia clearly betrays the words and spirit of the Treaty.When Prime Minister Abe visited Yasukuni Shrine, he made it clear that he prays for the souls of soldiers and civilians who sacrificed their lives for the nation, from the civil wars fought around the Meiji Restoration until WWII. He made a solemn pledge that Japan would never again wage war. To further clarify his intent, Abe also visited "Chinrei-sha ("Sooth the Souls Shrine)" located in the same compound, which commemorates all who died in war, irrespective of nationality. Abe has no intention to pay tribute to Class A war criminals, even though they have been enshrined since 1978. Roughly 5 million Japanese people visit Yasukuni Shrine every year and they have no intention to pray for war criminals. They visit Yasukuni Shrine with the same spirit and good intentions as Americans (and others) who visit Arlington Cemetery. China blames Japan for a revival of "militarism." Yet after WWII Japan has never used any weapon against any nation, while China has been involved in armed conflicts with its neighbors. During the Korean War, China sent PLA soldiers to South Korea to fight against South Korean armies and UN troops. In 1979, China attacked Vietnam. China's PLA soldiers periodically intrude on Indian territories in Northeast Arnachal Pradesh region and Northwest Kashmir. Chinese coast guard ships violate Japanese territorial and adjacent waters around the Senkaku Islands on an almost daily basis. They also patrol in the South China Sea to impose territorial claims on the Spratly and Paracel islands, which lay close to the shores of the Philippines, Vietnam, Malaysia, and Brunei. It seems like China will eventually use its first aircraft carrier Liaoning to exert pressure against its neighbors. Neighboring countries including Japan practice the utmost restraint to avoid giving China a pretext to attack.I believe that China is one of the great nations in world history. Chairman Xi Jinping stated that he would realize his "dream" to revive an old "China-centered world". However, I firmly believe that China's expansionism and its drive to hegemony in the Asia-Pacific region will not serve well this "dream." In fact, these actions will alienate and antagonize current and future friends of China. China's anti-Japan campaign seeks to isolate Japan in the international community through grossly misleading demagogy. Countries know, however, that as a defender and practitioner of democracy and human rights, law-abiding Japan has been one of the most peace-loving nations since WWII. Conversely, China is a totalitarian regime that violates the human rights of its own people. If China wants to become a truly great nation, its leadership would be well advised not to follow the example of the Chin Dynasty, which gained the biggest territorial space through the military conquests of its neighbors. It would do better to follow the example of the Tang Dynasty, which attracted peoples along the Silk Road and Japan with its great cultural, technological, and religious achievements.My dream is different from that of Xi. I wish to see China become a great nation that is respected and admired, with a corresponding soft power capacity. I would hate to see China to become merely a big nation, treated with fear by its neighbors and with suspicion by the international community.PacNet commentaries and responses represent the views of the respective authors. Alternative viewpoints are always welcomed.
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