パリ同時多発テロに関するコメント
研究員・S.Y.International代表  吉田彩子(フランス在住)

 13日に起きた同時多発テロは1月のテロよりも規模が大きく(カラシニコフと爆弾ジャケットで武装した8人のジハーディストによる数カ所同時攻撃、129人死亡)、セキュリティ関係者の間ではまたテロが来るのは判っていたとしても、衝撃は大きい。個人的には、@治安機関の限界、A国内のサラフィズムの浸透が10年以上も前からじわじわと始まっていたのに政府はうまく対処できなかったこと(それに関わる問題として特に移民系若者の不満や高い失業率、武器・麻薬・犯罪増加、刑務所における過激化なども含む)、を感じる。
 こういった国内の状況に加えて、B現在の中東情勢(米国のイラク介入から始まりその後ダーイッシュの台頭を許すような環境にしたこと、2011年のアラブの春で倒れると思っていたアサド政権が継続していること、そこへイラン・ロシアが影響力を拡大しようとしている現状・・・)などの外部情勢が関連している。
 国内・国外リンクし、おまけにサイバー戦もあるため、現在のテロや戦争は複雑化している一方だとしかいえない。
 テロ後のフランスは、シリア・ラッカへの空爆で応え(報復)、オランド大統領は、16日のコングレで「フランスはテロとの戦争にある」と述べた。治安機関の人材を増やすなどセキュリティ関連予算を増やすこと、削る予定だった国防省の人員をそのまま維持することなどを発表した。その他、テロ直後に発令された“非常事態(Etat d’urgence)”が3ヶ月延ばされること、二重国籍の人物がテロに関わった際の仏国籍の剥奪、そして国の危機管理に関して憲法改正をする方向を示した。
 テロ後の経済的インパクトも大きく、世界一の観光大国であるフランスの観光業は20%の減少だという。
 国外に関しては、特にシリアの現状に軍事的・政治的解決策を見つけることが必要である。G20ではオバマとプーチンが話し合い、オランドも米露が一緒になった大きな有志連合を組む方向にさせたいのだが、イランやサウジアラビア、トルコなど地域各国との利害関係もあり、簡単ではない。やはり一番の問題はアサド政権をどうするか、であり、仏国内も意見が割れている。オランドはオバマと24日に、プーチンとは2日後の26日に会談を予定している。また、17日、プーチンは、地中海に位置するロシア戦艦に仏海軍(シャルルドゴール空母)と協力するよう指示を出している。
 地上部隊の派遣に関しては、一部の政治家は「派遣するべきだ」、と言っているが、やはり米国のイラク介入を見ると泥沼化が予想され、それがダーイッシュの思惑通りになってしまう、ということでもあり、決めるのは簡単ではない。しかし、既にシリアでは地下に指揮所や訓練所があることが証言されているため、いくらドローン攻撃や空爆をしても破壊できない場所があり、最後はどうしても地上に行くしかない。現在シリアの地上戦ではイランが活躍しており、例えばPasdaran・AlQudsのソレイマニ将軍自身がシリア軍を支援しながらアレッポなど実地で指揮しているという。また、ロシアの兵士も地上に投入されているとの報告もある。フランスはシャルルドゴール(空母)を派遣して(12月中旬到着予定)、現在より3倍の戦力投射能力となるようだ。
 一方、国内でのセキュリティ強化や国外でのダーイッシュ撲滅作戦に加え、一番の根本的な課題は、“移民系若者への対応改善” “失業率を減らす”などの対策だ。こうした社会的な弱みに入り込んだのがサラフィズムで、そこから過激化した若者を利用するのがダーイッシュ、そしてその指示によってヨーロッパでテロが起きる、という構図になっているため、このスキームを中止させないとこの環境は長く続くことになる。しかし反面「既に遅すぎるのではないか」とも思う。対処するのが遅すぎた為に現在のようなことが起こっている、と私は見ている。移民・難民問題も関わり、これから長い戦いになることは確実だ。 



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