澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -2-
中国共産党内の暗闘
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 現在、世界銀行やアジア開発銀行とは別に、中国が創設するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対し、世界中の耳目が集まっている。
 今年3月末までに同銀行への参加を表明すれば、原加盟国となる。そこで、世界50の国・地域が設立メンバーとして名乗りをあげた。だが依然として、日米は同銀行への加盟に慎重な姿勢を取っている。一方、対中関係が最近ぎくしゃくしている北朝鮮は、中国に同銀行参加を拒否された。
 中国主導のアジアインフラ投資銀行は、東南アジアのインフラに投資する際有利になるだろう。だが同銀行は透明性に欠け、未だ海の物とも山の物ともわからない。ただ、欧州の主要な国々(イギリス・ドイツ・フランス・イタリア等)が参加を表明したため、同銀行は急にスポットライトを浴びることとなった。
 AIIBの眩い光に幻惑され日本のマスメディアが報じないのは、中国共産党内部での“暗闘”だろう。
 周知のように政治局常務委員会は7人で構成される。彼らは「チャイナセブン」(遠藤誉氏の造語)と呼ばれ、共産党の最高幹部である。ここでの決定は、全人代の決定よりも重い(中国では党が国家よりも上位にある)。
 現在、習近平政権は「トラもハエもたたく」というスローガンの下に、「反腐敗運動」を展開している。既に、党中央紀律検査委員会は党規律違反で数名の超大物(周永康・徐才厚<3月中旬に死亡>・郭伯雄・令計劃など)を摘発した。
 共産党内は、大きく3つのグループに分けられる。習近平(国家主席)の「太子党」(党・政府幹部の子弟)、江沢民(元国家主席)率いる「上海閥」、胡錦濤(前国家主席)の出身「共青団」(党内のたたき上げ集団)である。
 ただし、この分類はあくまで“理念型”であり、人によっては2つのグループに所属する、あるいは3つ全てのグループに近い党員もいる。だが、このグルーピングは、おおよその目安にはなるだろう。ちなみに、中国人の「関係」(“クワンシ”=人間関係)は、日本人のそれよりもはるかに濃密で、時には法よりも重視される。中国人は長い歴史をその「関係」を頼りに生き抜いてきた。我々はこの点を忘れてはならないだろう。
 さて、いまや中国は、上は「チャイナセブン」から下は庶民まで社会全体に汚職が浸透している。贈収賄がなければ、1日たりとも中国社会は動かない。汚職をしない人間は皆無と言っても過言ではない。皆、“たたけばホコリが出る”。
 言うまでもなく、習近平のターゲットは、第1に「上海閥」、第2に「共青団」である。習の自らの出身母体「太子党」の人間は、今まで誰一人として党規律違反で失脚していない(「太子党」の薄熙来は、胡錦濤政権時代に失脚)。「太子党」は何をしていようが、すべて無罪放免である。つまり、習は「反腐敗運動」に名を借りて、“恣意的”に政敵を打倒しようとしている。
 目下のところ習近平の「反腐敗運動」は、同じく「太子党」である王岐山(姚依林元国務院副総理の娘婿。党中央紀律検査委員会のトップ)と“二人だけ”で行っている。逆に言えば習近平は「チャイナセブン」の中で王岐山以外、同運動を任せられる人間がいないとも言えよう。
 政治局常務委員の中に一人だけ「共青団」出の李克強首相がいる。だが、その他は「上海閥」(ないしは「上海閥」系)と言えなくもない。つまり、習・王とって「チャイナセブン」のうち残りはすべて政敵の公算が大きい。
 とりわけ、劉雲山と張徳江は「上海閥」の代表的存在である。劉・張は「反腐敗運動」に最も抵抗しているという。党の宣伝機関(CCTV・新華社・人民日報等)を掌握する劉雲山は、習近平の言葉の削除、あるいは曲解して情報操作している疑いが持たれる。一方、張徳江は徹底して行政手続きをボイコットしているという。劉・張に加え、張高麗も「上海閥」に属する。彼らをまとめて「1劉2張」と称する。
 残りの兪正声は張愛萍(元国防部長)の娘婿で、元来「太子党」と見なされるが、「上海閥」とも関係が深い。そのため、兪正声は「太子党」なのか「上海閥」なのか、はっきりしない。政治局常務委員会の中で、兪正声は案件によって是々非々で対応している可能性もある(ひょっとすると、既に兪正声は「上海閥」に取り込まれているかもしれない)。
 李克強にしても、習・王のメスが「共青団」に入ったら牙をむくことも十分考えられよう。既に「共青団」の代表、李源潮国家副主席が「反腐敗運動」のターゲットになった。それは、李源潮の部下である仇和が中央紀律検査委員会の検査を受けていることからも推察できる。だとすれば、「共青団」の李克強が「上海閥」の劉雲山・張徳江らとスクラムを組んで、習近平・王岐山コンビに抵抗することは十分考えられる。
 華やかなアジアインフラ投資銀行設立だけに眼を奪われて、中国共産内で起きている“暗闘”を見逃してはなるまい。




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