澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -13-
令計劃の逮捕
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 日本の一部マスコミは、胡錦濤の大番頭、令計劃(前党中央弁公庁主任で「新四人組」の一人。他は、薄熙来・周永康・徐才厚<死亡>)が収賄の疑いで逮捕されたことで、ますます習近平政権が"固まった"と報道している。
 これは、依然、中国特派員が「日中記者交換協定」の呪縛から解けず、(GDPに代表される)共産党の宣伝を日本に“垂れ流している”証左だろう。率直に言って、事実誤認に近いと思われる。
 第1に、政治局常務委員(いわゆる「チャイナ・セブン」)の中には、「太子党」が習近平・王岐山の2人しかいない(ただ、「習・王連合」を支持する者はいるかもしれない)。また、政治局委員25名の中で、習・王に近いのは栗戦書(党中央弁公庁主任)ぐらいだろう。
 第2に、党中央紀律検査委員会は、なぜ「反腐敗運動」の本丸と目される江沢民や曽慶紅に対し、未だ直接捜査できないのか(江・曽への親族には捜査の手が伸びている)。江沢民の「上海閥」(と胡錦濤率いる「共青団」)が徹底抗戦しているからではないか。
 第3に、「反腐敗運動」を推し進める「習・王連合」が、なぜ周永康(習近平を暗殺しようとしたと噂される)に「死刑」判決を下せなかったのか。それは、習政権が他派閥(「上海閥」と「共青団」)と"妥協"したせいではないのか。
 第4に、習政権はなぜ米国へ逃亡した令完成(令計劃の弟で、米国籍の女性との「偽装結婚」の疑いが持たれている)を捕まえられないのか。習近平は、オバマ政権に100名にのぼる汚職官僚リスト(最上位に令完成の名があるという)を提出し、彼らの逮捕を依頼したのではなかったか。ちなみに、彼らのうち60名前後がすでにカナダへ再逃亡したと伝えられる。
 第5に、王岐山がなぜ今年7月に予定されていた(「キツネ狩り」と称する)訪米が実現できなかったのか。それは、米国側に王岐山の弱みを握られたからではないのか。王がJPモルガン・チェースに対し、親族等の不正な就職斡旋をしたため、米証券取引委員会から召喚状(そのトップが王岐山という)がJPモルガン宛に送られている。
 以上から、現時点で「反腐敗運動」は“膠着状態”と考えるのが自然だろう。

 さて、この夏の北戴河会議では、おそらく次期執行部(第19回党大会での新人事)が主要テーマになるだろう。だが、もう一つは習近平体制の“経済失政”に関してである。@(2014年5月から始まった)止まらない不動産価格の下落、A(昨秋来上昇し続けた)株価が今年6月12日に大暴落も議論されよう。習政権は「上海閥」や「共青団」からそれらの責任を追及されることは眼に見えている。同会議は、“生死を賭けた”激論が闘わされるに違いない。
 北戴河会議前に、令計劃が司直の手に委ねられたとしても、その裁判の判決結果を見なければ、習近平政権の基盤が本当に"固まった"かどうか判断しかねる。
 今回、習政権は恐る恐る令計劃を起訴したのではないだろうか。そして、適当な罪状でお茶を濁す可能性も十分に考えられる。なぜなら、令完成が米国への逃亡の際、曽慶紅から渡されたとされる約2700点の国家機密と党最高幹部の「(不倫)セックス・ビデオ」(その中には習近平のモノもあると噂される)が、すでに米オバマ政権へ渡っているかもしれないのである。
 一方、もし習政権が令計劃に厳しい判決を下せば、弟の令完成が「セックス・ビデオ」を世界に向かって公開するかもしれない。現在、ビデオはYouTubeやFacebookなどのSNSで、簡単に全世界へ発信できる。党最高幹部のセックス・スキャンダル(特に、習近平と王岐山)が公表され、中国国内にも知れ渡れば、習近平政権はアッという間に崩壊するだろう。
 目下、「習・王連合」に対し、少なくても「上海閥」は「反習・王連合」でまとまっている。ただ、「共青団」(胡錦濤が党書記を降りる際、「反腐敗」を叫んでいた)の立ち位置は、微妙だろう。それは、「習・王連合」が国家副主席である李源潮(「共青団」)をターゲットにしているからである。もしかすると、「共青団」は、「習・王連合」につくかもしれないし、「反習・王連合」へ合流するかもしれない。仮に「共青団」が後者と一緒になれば、「反腐敗運動」は厳しい状況に追い込まれるだろう。
 以上のように、共産党内の激闘は、今後、もうしばらく様子を見ないと本当の状況はわからない。



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