澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -46-
王林事件後の劉偉記者拘束
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 2015年7月15日、香港や中国で人気の高かった「気功大師」王林が、深圳で逮捕された。弟子の鄒勇殺害に関わった容疑である。まさか王林が他の人(黄ト剛・劉峰)に殺人を依頼して、自分の弟子を亡き者にするとは誰が想像しただろうか。師匠と弟子は、金銭をめぐって互いに3件の訴訟合戦を行っていた(一説には、王林は鄒勇にカネを無心していたという)。
 王林が逮捕された後、まもなく別の事件が発覚した。まさに「事実は小説よりも奇なり」である。
 今年10月9日、王林事件を追っていた『南方都市報』の記者 劉偉(報道部副主任)が、突然、江西省の公安当局に拘束された。「国家機密違法取得罪」(中華人民共和国刑法「第6章:社会管理秩序妨害罪、第1節:公共秩序撹乱罪」第282条)の容疑である。
 はじめ劉偉記者の身に何が起こったのか、よくわからなかった。香港紙『信報』(2015年10月31日付)などによれば、以下の通りである。
 2013年、劉偉は香港在住の王林に取材したことがあった。その時、劉偉は王林について好意的な記事を書いている。そこで、王林とその一家は劉偉と親しくなったという。その後、2年間、劉偉は王林一家と継続的に連絡を取り合っていた。
 王林には別れた妻の張七鳳、および愛人の雷帆という2人の女性がいた。劉偉記者は元妻と愛人に対し、王林事件担当の警察官 鍾偉(公安に入って4年の技術部門担当者で、現場写真や証拠整理の責任者)にカネを渡し、王林の情報を聞き出そうと提案したのである。劉偉記者は大スクープを狙ったのだろう。
 元妻の張七鳳と愛人の雷帆も、何とかして王林を救出したかった。今年8月1日、女性2人(張七鳳と雷帆)は警察官の鍾偉と江西省萍郷市のホテルで待ち合わせた。その際、張七鳳は、鍾偉に対し200万元を3回分割(着手金の60万元、1審時に60万元、王林が出所したら、残りの80万元)で支払う約束を交わしたという。
 実は、雷帆は王林事件発生後、公安から取調べを受けている。そのため、雷帆は警察官の鍾偉と顔見知りだった。
 劉偉記者は雷帆に二台の携帯を渡した。雷帆がその警官と連絡を取るためである。雷帆は鍾偉と頻繁に連絡を取り合い、ついに2人は性的関係を持った。
 雷帆は、鍾偉のためにブランド品の衣服を買ったり、一緒に旅行したりして、6、7万元使ったという。そして、ついに鍾偉は王林に関する情報を元妻や愛人へ流した。結局、張七鳳・雷帆・鍾偉は警察に逮捕されている。他方、今年10月31日、劉偉は罪を認めため、釈放されたのである。
 ところで、王林は中華圏の女性有名芸能人を多数知っていた。そして、王林は彼女らとベッドを共にしたとうそぶいている。
 例えば、台湾出身の女優 王祖賢(ジョイ・ウォン)、安徽省出身の女優 趙薇(ヴィッキー・チャオ)、北京出身の歌手 王菲(フェイ・ウォン)、重慶市出身の女優 劉暁慶、黒竜江省出身の女優 李冰冰、湖南省出身の女優兼キャスター 李湘などだった。無論、王林の話が事実かどうか不明である。
 この中には、中国共産党幹部とただならぬ関係にあった芸能人もいただろう。王林は党幹部と深い関係を持つ女性がいることに気付いたに違いない。
 おそらく、劉偉記者は王林の元妻や愛人を通じて、その情報を掴んだのではないか。党幹部と香港・中国芸能人との“大スキャンダル”である。それゆえに、劉偉は「国家機密違法取得罪」に問われた可能性が高い。そうでなければ、中国当局が王林事件の取材に関して、ここまでピリピリする必要はないはずである。
 仮に、この説が正しいとしよう。確かに、劉偉の取材方法には問題があった。必ずしも正当な取材とは言えないからである。けれども、中国共産党幹部が自らのスキャンダルを隠蔽するため、一記者に「国家機密違法取得罪」を適用したとするならば、共産党政権は地に墜ちたものである。
 ここで想い出されるのは、(胡錦濤の大番頭)令計劃の弟、令完成が中国から米国へ持ち出した約2700点もの国家機密とセックス・ビデオだろう。習近平政権は血眼になって(たぶん米国政府に匿われている)令完成を執念深く追っている。それは、共産党幹部がカネと女性にまつわる“大スキャンダル”暴露を恐れているからに他ならない。
 中国共産党の腐敗はあまりにも根が深く、今や末期的症状を呈している。


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