澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -91-
中国の「構造改革」「国有企業改革」の難しさ

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 中国では毎年1度、3月初旬から中旬にかけて、両会(全国人民代表大会と人民政治協商会議)が行われる。
 先の両会での最大のテーマは、今年スタートする「第13次5ヶ年計画」(2016年〜2020年。昨年10月の「五中全会」での追認)であった。今後、中国をどのように発展させるのか、その青写真作りである。
 3月5日、李克強首相は、経済成長率を6.5%〜7.0%に設定したと報告している(恐らく、この数字は非現実的かもしれない)。
 全人代では、まず「構造改革」が強調されている。(公共)投資中心の経済構造から、消費中心のそれへの転換である。しかし、これには大きな疑問符が付く。
 消費型社会実現には、まず中間層を育てなければならない。実際、中間層は消費意欲が一番旺盛である。この中間層を生み出せれば、その国の消費拡大は十分見込まれよう。
 ところが中国の場合、ごく限られた富裕層及び一部の中間層、それに、圧倒的多数の貧困層から構成されている。
 一般的に、富裕層は買う物が少ない。欲しいモノはすでに購入済みである。他方、貧困層は買いたい物はいくらでもあるが、所得に限りがあるので買う余裕がない。
 周知のように、中国の中間層、特にアッパー・ミドル(中間上位)は海外で“爆買い”する。国内には多くの偽物が流通し、自国製品を信頼できないからである。

 さて、昨年、中国政府が発表した年収2300元(約3万9500円=1日あたり約108円)以下の「絶対的貧困層」に分類される人々は、2014年には7017万人いた。この数字だけ見ると、中国には貧困層は7000万人あまりしかいないと錯覚してしまう。ちなみに国連の定義する「絶対的貧困層」とは1日1.25米ドル=約138円で暮らす人々である。
 若干古い数字で恐縮だが、中国には約3億人の「準絶対的貧困層」(1日1.25〜2.5米ドル以下=約138〜277円以下)、および約4.2億人の「相対的貧困層」(1日2.5〜5米ドル以下=約277〜554円以下)が存在する(拙稿「見逃がせない中国の貧困層」『経済界電子版』参照)。つまり、合計約7.9億人が「相対的貧困層」以下に属する。
 では、新たな中間層を生み出すにはどのようにしたら良いのか。それには@経済成長の持続 A新産業の開拓 B富の再分配などが必要だと思われる。
 今の中国経済は「リーマン・ショック」時よりも悪い。過剰生産(力)と過剰在庫に苦しんでいる。特に鉄鋼やセメント等は最悪だろう。不動産関係の公共投資は、すでに限界に達している。できれば、将来性のある新産業への投資が待たれよう。
 また、現在でも中国には遺産税(相続税)や贈与税がない(以前から導入は検討されている)。そのため、豊かな一族は更に栄える。

 ところで、全人代でもう一つ強調されたのは、「国有企業改革」(および「ゾンビ企業」の適切処置)である。国有企業は民間企業と比べ、平均収益率は約半分程度だと言われる。欧米日本と同じように、中国の国有企業が次々と“民営化”(株式会社化)すれば、赤字企業が黒字化する公算は大きい。
 それでは、中国で国有企業を“民営化”ができるかと言えば、かなりの困難が伴う。
 第1に、国有企業は、いわば“失業者対策”という側面を持っている。その余剰人員をリストラし大量の失業者が出たら、社会不安がますます増大するだろう。そうでなくても、全国各地では賃金未払い等で大規模デモが多発している。
 例えば、両会中、黒竜江省双鴨山市双鴨山鉱業集団(国有企業)では、数ヵ月間の賃金未払いで、1万人以上の大規模なデモが起きた。そのため、黒竜江省長の陸昊(第6世代「共青団」の星)は苦境に立たされている。
 第2に、一部の国有企業は人民解放軍との結びつきが強い。もし、共産党がそれらの国有企業を“民営化”したら、軍の権益は守れないだろう。それでも“民営化”を強行したら、軍の反乱が起こる可能性も排除できない。
 第3に、多くの国有企業は、共産党幹部とその子弟が既得権益を死守している。“民営化”されれば既得権益を維持できないので、彼らは必至に抵抗するだろう。各派閥の利益調整は至難の業である。
 第4に、もし国有企業がすべて“民営化”して国有企業がなくなれば、共産党の掲げる「中国の特色ある社会主義」から逸脱する。もはや共産党のレゾン・デートル(存在意義)は消滅するだろう。
 以上のように、「国有企業改革」を実行すれば、社会構造そのものを揺るがしかねない。ここに中国のジレンマが潜んでいる。


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