弾劾はトランプ大統領を有利にした

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 アメリカの民主党はトランプ大統領を弾劾することで、逆に同大統領の立場を強くしてしまった――反トランプの立場で知られるアメリカの大手紙ワシントン・ポストがこんな総括を打ち出すコラム記事を掲載した。民主党は全力をあげて、トランプ大統領を解任するための弾劾措置を進めたが、その試みは単に失敗に終わっただけでなく、国民一般のトランプ支持を増し、民主党側への支援を減らしてしまった、という報告だった。まさにブーメラン効果だったのだ。
 
 いまや大統領選の予備選挙を迎えて国際的な関心を集めるアメリカ政治の現実として知っておくべき現状報告だろう。今後の政治情勢の展開は分からないとはいえ、現時点では敵さえもその強さを認めたトランプ大統領だともいえる。
 この記事はワシントン・ポスト2月6日付に掲載された。見出しは「民主党側はトランプ大統領にすべての攻撃をかけた。だが彼はなお揺らいでいない」という表現だった。筆者は同紙政治コラムニストのマーク・ティエッセン氏である。同氏は二代目ブッシュ政権で高官を務めた共和党寄りの人物だが、穏健派で必ずしもトランプ支持ではない。
 トランプ大統領に対する民主党側による「ロシア疑惑」追及や「ウクライナ疑惑」弾劾を一貫して強く支持してきたワシントン・ポストがこの種の記事を大きく載せるのは現実の政治状況としてトランプ氏のいまの立場の強固さを客観的に認めたことにほかならない。
 この記事は総括として冒頭で「トランプ大統領を弾劾して、解任しようとする民主党の試みは単に失敗しただけでなく、2020年の大統領選でのトランプ氏の立場を強化して、再選の可能性を高めたという点で民主党の自損行為となった」と述べていた。
 そのうえで同記事は以下の諸点を指摘していた。
 
・トランプ大統領の全米支持率はギャロップ社の世論調査によると、弾劾手続きの始まる前の昨年10月には39%だったのが弾劾の終わった今年2月上旬には49%にまで上昇した。トランプ大統領の再選を望む米国民は2018年10月には41%だったのが2020年2月には50%となった。
 
・トランプ大統領を支持する共和党層の支援の勢いが民主党による弾劾手続きの進行とともに強まった。同じギャロップ社の調査によると、2020年1月に88%だった共和党層のトランプ大統領支持率が1ヵ月後の2月には94%という過去最高の数字を記録した。民主党の弾劾への動きが共和党を団結させたことになる。
 
・弾劾の失敗が民主党支持層を落胆させ、大統領選への熱意を減らすことになった。最近のAP通信の世論調査によると、2020年の大統領選に熱意を覚えるという民主党層はわずか33%となった。今回のアイオワ州党員集会でも、民主党の投票者は約17万人で、2008年の同集会の24万人から30%の減となった。
 
・民主党は議会で弾劾推進に集中したため、トランプ大統領が議会で他の重要法案を通過させることを可能にしてしまった。連邦議会は今会期に北米三ヵ国の新自由貿易協定、巨額の防衛予算、オバマケアの一部税制を抹殺する新課税法、メキシコとの国境の壁への支出を容易にする政府職員関連法などを可決し、トランプ統治の拡大を許した。
 
・民主党の弾劾推進はトランプ支持層を刺激して、トランプ陣営への選挙資金寄付の急増をもたらした。2019年の最後の3ヵ月にトランプ陣営は合計4600万ドルという記録破りの高額の選挙資金寄付を集めた。その結果、現時点でのトランプ陣営の選挙資金の総額は1億200万ドルとなり、民主党側の各候補を圧した。
 
 ティエッセン氏のコラム記事は以上のように述べたうえで、1月30日の上下両院合同会議でのトランプ大統領による一般教書演説でも、民主党のナンシー・ペロシ下院議長が大統領の背後の議長席で教書演説の原稿を派手なジェスチュアで破いてみせたことも一般アメリカ国民の多くの目には非礼と映り、民主党の停滞をさらに増した、と結んでいた。
 日本側でトランプ大統領を叩き、その不人気を強調し続けてきた一部のメディアや識者たちにとってはこのようなトランプ人気上昇は不都合な真実だと呼べるだろう。