バイデン政権の対中「まだら政策」への批判

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 米中両国の対立が明確となってきた。アメリカのバイデン政権も中国の無法な言動への抗議をはっきりと表明するようになった。日本やオーストラリアなどの同盟諸国との対中批判の連帯をも鮮明にするようになった。
 
 だがそれでもなおバイデン政権の中国に対する戦略や政策は明確には見えてこない。強固な姿勢をみせる一方で中国との協力や共存をも求めるからだ。だからバイデン政権の対中態度は「硬」と「軟」が入り混じった「まだら」の政策にもみえてくる。
 このあたりの実態をトランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏が3月中旬の論文で指摘した。ボルトン氏は外交戦略や対中政策の専門家として長年、活動してきた。その指摘は日本側としてもよく知らねばならないバイデン政権の対中姿勢の光と影の描写とも言えそうだ。
 
 ジョン・ボルトン氏は2代目ブッシュ政権の国務次官や国連大使を務めたほか、トランプ政権では2018年4月から1年半ほど大統領補佐官を務め、トランプ政権の対外政策全般を担当した。だがアフガニスタン政策などをめぐってトランプ大統領と衝突して退任し、後の回顧録でトランプ氏をも厳しく批判した。
 
 そのボルトン氏がバイデン政権の対中姿勢についての見解を公表した。ワシントン・ポストに3月16日に掲載された「バイデン政権高官の最初の中国高官との会談ではなにが最大の課題か」と題する寄稿論文だった。
 ボルトン氏はまずその時点で目前に迫ったバイデン政権の代表のブリンケン国務長官らと中国政府の楊潔篪国務委員らのバイデン政権下の初の米中高官協議を踏まえて、アメリカ側からみて注意すべき中国側の不当な行動として以下の項目を具体的に指摘していた。
 ・アメリカの国内の世論に対する秘密裡、公然両方の理不尽な介入
 ・南シナ海の紛争地域での一方的な軍事基地の建設
 ・台湾やベトナム、インドに対する威迫
 ・人民解放軍の戦略核兵器の増強や無法な地球規模のサイバー作戦
 ・北朝鮮の核兵器開発計画への支援
 ・新型コロナウイルスの発生に対する隠蔽工作
 ・他国の知的所有権の窃取と高度技術の強制的な移転
 ・ウイグルでのジェノサイド
 ・香港での人権弾圧
 
 ボルトン氏はバイデン政権もすでにこれらの中国側の言動に対して何らかの形の批判的な言及や指摘はしていることを認めながらも、「単に問題の指摘のリストを作ることだけでは戦略とはならない」と強調した。この主張はバイデン政権が現段階ではまだ中国側の好ましくない言動をリストとして列記するという次元に留まっていることを批判的に取り上げ、ではその結果、どうするのか、という戦略が見えてこないことを指摘したと言える。
 
 ボルトン論文はさらにバイデン大統領が習近平主席と電話会談をしたことや、日本、オーストラリア、インドにアメリカを合わせて合計4ヵ国の「クアッド」首脳会議を開いたこと、ブリンケン国務長官らが日本と韓国を訪問し、協議したこと、などを列記して、これらの一連の会議、会談がみな中国への対応を念頭においた点をも前向きに評価する姿勢をみせた。
 
 ただしボルトン氏はここでもバイデン政権のこうした同盟諸国や友好国との協調の動きは、それ自体は政策にはなっていないという点を強調していた。
 「クアッドや他の諸国との協議はまだプロセスであって、実質的な政策ではない。中国の受け入れ難い言動に対処する戦略でもない」
 
 そのうえでボルトン論文は現段階でのバイデン政権の対中姿勢には欠陥や弱点があることを以下のように指摘していた。
 「ブリンケン国務長官はアメリカ側での公式発言で『中国に対しては協力のできる分野や方法があるかどうかを探ることも重要だ』と述べていた。だがこの言葉は中国に対して『アメリカ側の対中姿勢では何が弱点なのかを教えよう』と示唆しているに等しいのだ」
 
 「バイデン大統領が気候変動問題担当の特使に任命したジョン・ケリー氏(元民主党大統領候補、元上院議員)の熱心な発言どおりならば、バイデン政権は中国との間では気候変動防止に関する合意を成立させることが最優先事項だとも受け取れる。中国側がそう思えば、アメリカ側の他の要求や抗議には応じない可能性が高くなる」
 
 「いまのアメリカでは国民一般の中国への反感がきわめて強くなった。特に中国で発生したコロナウイルスに対する習近平政権の当初の隠蔽などに対するアメリカの国民や議会の反発は険悪となる一方だ。そんな状況下でバイデン政権が中国との協力を優先させるならば、国内での深刻な状況が生まれるだろう」
 
 ボルトン氏は以上のようにバイデン政権では大統領や国務長官、国家安全保障補佐官らがみな中国の無法な行動を非難する一方、その中国との協力や共存、関与なども分野によっては必要だと必ず述べている点への批判を明確にするのだった。
 やはりバイデン政権の対中まだら外交では上手くいかないという警告だとも言えようか。