旧ソ連の亡霊プーチン

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 プーチンの非道なウクライナ侵略を見ていると、プーチンには、冷戦時代にアメリカと張り合っていた超大国ソ連への強烈な懐古があると感じてならない。ロシアは、1917年の社会主義革命以前は、ロシア帝国が支配していた。この帝国は、ロシア、フィンランド、リトアニア、ベラルーシ、ウクライナ、ポーランドからシベリアまで広大な地域を支配し、「帝政ロシア」と呼ばれていた。
 社会主義ソ連になった直後には、各国の民族自決権を認めバルト三国などの独立を認めていた時期もあったが、スターリンの時代になってバルト三国を再び支配下に置くなど、東ヨーロッパやアジアへの勢力圏拡大を図った。日本の北方領土も、当時、ソ連も認めていた「領土不拡大」という国際原則を破って奪ったものだった。
 ロシアには、伝統的に根強い大国主義がある。プーチンにはスターリンとの共通点がある。それは、国際社会は大国が主導し、小国の主権は制限される、現在の国境はいくらでも移動できると見なしていることだという指摘もある。
 今回のウクライナ侵略でも、その正当化を図るためプーチンは、「現代のウクライナは完全にロシア、正確にはボリシェビキ(後のソ連共産党)がつくった」とか、「8年間、『集団殺害』にさらされた人々を守るため、ウクライナの非ナチ化、非武装化をはかる」などと勝手なことを語っている。
 だが実際には、ウクライナを支配下に置き、独立を抑え込んできたのがソ連であった。第二次世界大戦で最終的にはナチス・ドイツと戦って打ち破ったが、その過程ではヒトラーと独ソ不可侵条約を結び、ポーランドやバルト三国の分割支配をすすめ、暴虐を支えてきたのもソ連であった。ソ連時代KGB(ソ連国家保安委員会)の中佐として国民を弾圧する側にいたプーチンが、非ナチ化とは厚かましいにも程がある。
 その後も「砲撃は軍事施設だけ」「民間人は攻撃しない」と言いながら市庁舎、病院、学校、住宅など無差別爆撃を行なっている。「原発に放火したのはウクライナの工作員だ」などという子供だましの嘘まで平気でついている。嘘や歪曲による情報操作、プロパガンダである。これを得意にしてきたのがナチスとソ連であった。
 ロシアで情報統制を強める法律が成立した。軍事をめぐる報道や発信の内容を当局が虚偽と判断すれば、記者らに最大15年の禁錮刑を科すという。戦争批判を封じる言論弾圧である。この戦争が正しいものだと自信を持っているのなら、報道管制、報道弾圧など必要がない。その自信がないから弾圧するのだ。こういうのを“語るに落ちる”と言う。
 いまウクライナ侵略を行なっているロシアのプーチン大統領は、レーニンは憧れの人物なのであろう。2012年12月にレーニン廟を聖遺物として保存するよう提唱したそうである。クレムリンの壁と霊廟に「強いロシア」のイメージを重ねる者はいまも多いようだ。ソ連は消滅したが、暴力を厭わない社会主義ソ連が生み出したのがプーチンである。