左翼の説得力のない「反撃能力」反対論

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 日本共産党は、「政府が『反撃能力』と呼ぶものを敵基地攻撃能力と表記する。その最大の現実的危険は、日本に対する武力攻撃がないのに、米国の戦争に集団的自衛権で参戦するさいに使用されることにあるからだ。これはいかなる意味でも『反撃』とは呼べず、相手国から見れば事実上日本の先制攻撃となるからだ」と表明している。
 この敵基地攻撃を先制攻撃と結びつけ、「専守防衛」に反するという見解は、日本の左翼に共通している。だが日本の左翼はそもそも「専守防衛」に賛成してきたのか。「専守防衛」にも反対してきたのが日本の左翼なのだ。「自衛隊を憲法違反の軍隊」と位置付けてきたのだから当然の帰結だ。かつての日本社会党や現在の日本共産党がそうである。日本共産党は“いざとなったら自衛隊を活用する”などと勝手なことを言っているが、それで他国の攻撃から国土と国民を守れるのか。
 ロシアとウクライナの戦争は、ウクライナが仕掛けたものではない。ウクライナは、専守防衛に徹して戦っていると言ってもよい。最近、ドネツク州でウクライナ軍の攻撃によって多数のロシア兵の死者が出たが、ドネツク州はもともとウクライナの領土である。これも反撃能力があったから可能だったのだ。
 ウクライナ軍は、昨年4月、黒海に遊弋(ゆうよく)していたロシア艦隊の旗艦である「モスクワ」を攻撃し、沈没させた。これは日本の敵基地攻撃論でも出てくる敵の「指揮統制機能」を破壊するために行なったものである。ウクライナがロシアの指揮統制機能を攻撃したからといって、それをロシアに対する侵略だなどとは誰も批判しなかった。いま極寒のウクライナの発電所などを意図的に狙ったロシアのミサイル攻撃が激しさを増している。ウクライナ国民の越冬が危機にさらされている。それでも敵のミサイル基地を攻撃するのは、敵基地攻撃で駄目だというのが左翼なのか。
 昨年だけでも北朝鮮は数十発のミサイルを発射した。全国瞬時警報システム(Jアラート)は何の役にも立たなかった。中国も軍備拡大を進め、しばしばロシアとの共同演習を日本周辺で繰り返している。だが共産党をはじめとする左翼勢力からは、敵の攻撃から日本国民を守る防衛体制をどう構築するのか、それがまったく提示されていない。敵基地攻撃に反対するというけれど、では、敵が日本の領土、領海、領空に侵入してきたとき、その敵を排撃することには賛成なのか、そのための装備を備え、そのための防衛予算を組むことには賛成なのか、そこがないのだ。共産党などは「大軍拡予算反対」と言うだけなのである。
 敵基地攻撃に反対している勢力は、敵の基地を叩くことには反対しているが、日本の領域に入ってきた敵の軍隊を叩くことには賛成と言えるのだろうか。そのための防衛装備とか防衛予算ならもちろん賛成だと胸を張って言えるのだろうか。それが言えないようでは話にならない。そして何よりもそうならないようにするのが、反撃能力の保持なのである。