スペースデブリ(宇宙ゴミ)を増やす中国・ロシア、
宇宙安全保障の重要性

.

政策提言委員・経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員 藤谷昌敏

 NASAによると、昨年12月14日、ISSにドッキングしているロシアの宇宙船ソユーズの外部にある管に小さな穴が空き、冷却液が漏れているのが確認された。この事故の原因は、スペースデブリ(宇宙ごみ)や隕石の衝突と考えられている。現在、ISSに滞在している7人の宇宙飛行士に危険はないといい、事故後もNASAの宇宙飛行士は船外活動を行っているが、米技術サイトのアーズ・テクニカ編集者エリック・バーガー氏は、「これは、四半世紀近く使用されているISS(宇宙ステーション)の歴史において、最も深刻な事故の一つだ」と強い危機感を表明した。一方、問題となっていた宇宙飛行士の帰還方法については、ロシアの宇宙機関Roscosmosが3月に飛行士をISSに送り込むために用意していたMS-23ソユーズの予定を1か月前倒して、2月に無人で打ち上げることを明らかにした。
 
スペースデブリ(宇宙ゴミ)とは
 スペースデブリ(宇宙ゴミ)とは、地球を周回する軌道上にある人工物のことで、使用済みまたは故障して使うことができなくなった人工衛星やロケットの上段や、塗料片、固体ロケットモータの燃えカスなど種類は様々だ。半分以上を占めるのが、衛星の運用後に燃料が残っていたことによって起こる機体の爆発や、スペースデブリ同士の衝突により発生した破片だ。このスペースデブリは軌道上にある人工衛星やロケット、宇宙ステーションなどと衝突する危険性が高く、例え、小さなものといえども、これほどのスピードで衝突すれば、甚大な被害が及ぶことは間違いない。宇宙利用が進むにつれて、スペースデブリの問題は深刻化しており、各国の宇宙機関でも、本格的に技術検討や対策が議論されている。
 基本的に軌道上の物体は、北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)の宇宙監視ネットワーク(Space Surveillance Network、略称:SSN)、ロシアの宇宙監視システム(Space Surveilance System、略称:SSS)などが約10cm以上の比較的大きなデブリをカタログに登録して常時監視を行っており、日本でも美星スペースガードセンター(BSGC)、上斎原スペースガードセンター(KSGC)の2施設でデブリの監視が行われている。カタログ登録されたデブリの数だけでも約9,000個に及び、1mm以下の微細デブリまでも含めると数千万個以上とも言われる。軌道上の物体は周回しており、7〜8km/s程度で周回している場合、2つの物体が衝突する際の衝突速度は10〜15km/sにも及ぶ。これは、一般的なライフル銃の弾丸の10倍ものスピードで衝突するのと同じだ。デブリは地球の周りに均等に分布しているわけではなく、よく使用される軌道に数多く存在している。特に地球観測衛星などで使用される高度700〜1,000km周辺や通信衛星や気象衛星などが使用する高度36,000kmの静止軌道周辺、GPS衛星が使用する高度20,000km周辺が非常に混雑しているという。
 
なぜスペースデブリが大規模拡散したのか
 運用中の衛星にスペースデブリが衝突すると、衛星が損傷し、当たりどころによっては使用不能になる。これまでも、実際に運用中の衛星にスペースデブリが衝突する事故が複数起きている。大量のスペースデブリが発生した2つの要因として、2007年1月の中国の老朽化した気象衛星「風雲」を対衛星兵器で破壊した実験と2009年2月のロシアの軍事衛星「コスモス2251」とアメリカイリジウム・サテライト社の通信衛星との衝突が挙げられる。
 中国において、弾道ミサイルによる人工衛星破壊実験の標的となったのは風雲1号シリーズの3号機「風雲1号C」で、1999年5月10日、長征4B型により極軌道の高度870kmに投入されたものだ。打ち上げ時の重量は約960kg、設計寿命は2年とされていた。破壊実験では、西昌衛星発射センターからSC‐19ミサイルが発射され、運用終了後の気象衛星「風雲1号C」に衝突し、同衛星は一瞬にして完全に破壊された。これによって直径10㎝以上のスペースデブリが約3000個も発生した。これらのデブリは軌道高度約800kmに存在しており、高度が高いことから、大気圏への突入に時間がかかり、ISS(国際宇宙ステーション)や他の衛星への大きな脅威になると言われている。
 実際、2011年4月、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、「2007年に破壊した風雲一号3号機の破片と見られるスペースデブリがISSとの距離6.07kmまで接近した」と発表し、万が一の場合に備えISSに滞在中の宇宙飛行士に、ロシアのソユーズ宇宙船への退避を検討するよう命令が下った。実際には、再計算して衝突は避けられることが分かったが、デブリが重大な脅威となることが再認識された。中国の衛星破壊実験から3年半が経過した時点でも97%の破片は軌道上に残ったままであり、2010年9月の時点でこの破壊実験で生じたデブリは3,037個が確認されている。
 ロシアも2009年の衛星衝突事故の発生にもかかわらず、2021年11月には、人工衛星をミサイルで破壊する対衛星兵器の実験を行った。当時、米国のブリンケン国務長官は声明で、「大量のスペースデブリが発生した」として、「無謀で無責任な行為だ」とロシアを強く非難した。また声明では、「11月15日に行われた実験により1500個以上のスペースデブリが地球の軌道上に残った」と指摘し、「ISSでの活動に危険を及ぼすおそれがある」として、「今後数十年にわたり、すべての国の安全や経済、科学に不可欠な衛星を脅かすものだ」との懸念を示した。今回のISSの事故も、中国・ロシアの衛星破壊実験による大量のスペースデブリが深刻な被害を与えた可能性がある。
 
宇宙安全保障の重要性
 現在、宇宙空間は安全保障の面でも重要な領域になっている。中国とロシアは、実験による多量のスペースデブリ発生について、国際的に大きな批判を浴びたが、以降も衛星破壊実験をやめなかった。中国とロシアは、現代の戦争において相手方の衛星を破壊することが非常に有効であると考えており、有事発生の際には敵対国の衛星破壊を行う意思があることを世界に示した。今、敵対国の衛星破壊手段から自国の衛星をどうやって守るかが、宇宙安全保障の大きな課題となっており、130機以上の人工衛星を有する日本にとっても、この宇宙安全保障は極めて重要だ。