「G7サミットを振り返って」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 G7とウクライナ連合対中・露の対立はG7の圧勝といった形になった。岸田外交は望外の成功となった感がある。
 米国がG7側にF16戦闘機の供与方針を固めたことで、G7側の軍事的強化と結束が固まり、一方の中国はロシア離れしたい思惑が見える。
 グローバル・サウスと呼ばれる国々も今後の経済発展を考えれば、G7側にピタリと寄ってくるのではないか。米国を含めG7はこれまで技術、経済面で中国に侵略される一方だったが、“技術封鎖”の執念はこれまで以上に強化されるだろう。プーチン大統領の無法は世界中に認知され、嫌われた。中国にぶら下がって経済を建て直すのは無理だろう。経済指標が統一化されていないが、中国の若手失業率は初の2割を超えたという。中国のIT大手の業績も回復せず、経済回復の目途は立っていない。
 また、イタリア政府が半島を南北に貫く「一帯一路」の事業から脱退する気配もある。中国にとってプラスの要因は極めて少ない。
 中国にぶら下がるしかないプーチンのロシアがいつまで中国を頼りにできるか。中国も自国の復興や技術や資源の再配置をうまく乗れるのだろうか。
 岸田首相は“重武装方針”を打ち出した後、本来なら核軍縮の土台を作るべきだった。しかし広島市の“平和祈願”をセレモニーに替えた。軍縮条約の準備をしたところで、核軍縮が進むわけではない。
 5月22日付の読売新聞の世論調査を見ると、岸田内閣の支持率は56%と前回比で9%も伸びている。本来の軍縮会議方式に比べて、平和祈願方式の方が世論に訴えたということだろう。同調査では「自民党に他によい人がいない」が50%を占めている。
 岸田首相自身は「総選挙のことは一切考えていない」と言っているが、総裁任期は来年9月までで、それまでに総選挙をやって総裁任期と重ねようとするのが常識だろう。
 岸田氏の外交手腕が相当のものであることが分かった。全体として緩みがちだったG7各国の思考も、岸田首相が打ち出した。「デカップリング(切り離し)ではなく、多様化、パートナーシップの深化、デリスキング(リスク低減)に基づく経済的強靭性と経済安全保障へのアプローチで協調する」という一説は、素晴らしい。経済事態の経緯と今後の方針を明確に示している。
 基本認識において各国も同感したのではないか。今後はこの大方針に反したものは弾(はじ)かれるということだ。
 今回、インドのモディ首相が参加したのは将来の世界を占う事態ではなかったか。中国やロシアに反対することなく、モディ氏は自然にG7の流れに乗った。見事なインド外交だった。