「岸田首相の国家観で大丈夫か」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 真っ先に岸田首相の責任を問わなければならない。日本の学校教育レベルの低さは何だ。これは一教師の怠慢とか不注意で済まされることではない。家に出入りの看護師さんが、「台湾」の存在を知らなかったのだ。台湾と言えば小学校か中学校の地理というより社会科で出て来る問題である。日中問題を勉強すれば、必ず出て来る。地図を開けば日本の南の島国として必ず出て来る。全小学生が台湾の存在と日本との歴史を知らないことは、教育現場は勿論、総理大臣の責任でもある。
 日本人が台湾を意識しながら、何となく話題にしにくかったのは“台湾”の持つ政治的な意味だろう。日本人は昔から台湾が好きだった。今もなお深い愛着がある。台湾の難事には立ち合いたい。その気持ちを表現することが難しかった。その表現しにくい関係を、「台湾有事は日本有事だ」と一言で表現したのが安倍晋三元総理である。これほど日台の地政学的位置と日本人の心を正確に語ったのは安倍氏だけだ。これ以外に日台関係をうまく表現する言葉はない。
 台湾は「化外の地」と言われて、主人のいない島国だった。そこで日清戦争の勝利を機に下関条約によって日本に割譲された。以来50年経って日本が第二次大戦で敗北すると中華民国の一部とされた。しかしその帰属に台湾人の誰も承諾していない。残っているのは50年間日本領だったという事実である。当初は中華民国に帰属すべきという論もあったが、世論は民主化し、陳水扁総統の頃から、中国帰属反対が強くなった。来年1月の総統選に向けて中国系が野党連合を企てているようだが、歴史的に台湾外からの干渉は逆効果の場合が多い。
 中国の習近平主席は「台湾を獲る」と公言し、その時期を2027年と宣言している。それに対して日米両国は周辺国を話し合いに巻き込んで、中国包囲網を築こうとしている。
 最近、日本は集団的自衛権も視野に戦闘機を使った日豪共同訓練を本格化させる。これは一方で自衛隊の活動範囲を際限なく広げ、憲法が禁じる海外での武力行使の道を開く恐れがある。岸田氏にとって「憲法改正」が喫緊の事態ではないか。
 最近、世論調査をやるたびに岸田内閣の支持率が下がっているのは、減税だ、増税だという税のやり取りよりも、国家の土台は大丈夫かということではないのか。
 日本は最近の日豪との接触に加えて2016年、英国空軍の最新戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」と航自の「F-15とF-2」とのガーディアン・ノース16を行った。さらに22年、ドイツがユーロファイターを日本へ、23年にはインドがスホイ30を日本へ、さらにフランスが航空自衛隊にラファールを派遣した。いずれも初の派遣で、ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに始まったものだ。対ロシア組織は既に出来上がっており、同様に対パレスチナ戦略も形成されつつある。