リトアニア大使表敬訪問

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JFSS 事務局

 4月19日、JFSS長野禮子事務局長がオーレリウス=ジーカス駐日リトアニア共和国特命全権大使を表敬訪問した。ジーカス大使は金沢大学、早稲田大学への留学経験を持ち、日本語堪能かつ日本文化を熟知した知日派外交官として知られており、SNS等を通じて日本でのリトアニア全般に関する広報活動に力を入れている事で有名である。
 表敬訪問の席上、まず長野は日本の安全保障環境に対する日本国民の意識についてどのような感想を持っているかを尋ねた。ジーカス大使は長野の予想通り、日本の厳しい安全保障環境にあっても尚、「平和ボケ」が続く日本国民への感覚に対する疑問を呈した。
 その後、長野からJFSSが過去3回開催した「台湾海峡危機政策シミュレーション」に関する概要説明が行われた。リトアニアは2021年、首都ビリニュスに「駐リトアニア台湾代表処」を置くなど台湾との関係を強化していることから、ジーカス大使は強い関心を示した。大使執務室では、昨年7月の第3回台湾有事シミュレーションにオブザーバー参加した大使館付防衛顧問も同席し、現役の政治家が閣僚役として参加するシミュレーションは例がないと高く評価。シミュレーションの模様が広く報道されることにより、台湾有事が日本に大きく影響すると考える国民が93.2%(フジTV調査結果)に上ったことを改めて長野が説明した。
 多岐にわたる会談では初対面とは思えないほど、大使と長野は意気投合し価値観の共有を確認するとともに、今週行われるEU加盟20周年レセプションへの招待など、今後の交流を約束した。実に有意義な訪問であったことを報告したい。
 
リトアニア・カウナス市の「杉原記念館」(旧日本領事館)。
 
《リトアニアについて》
 リトアニアはその長い歴史の中で多くの紆余曲折があった。1991年独立から30年余の人口約282万人のバルト海東岸の南に位置する小国だが、常に大国ロシアの脅威に備えるべく安全保障環境に対する意識は強固だ。
 日本とリトアニアの間にはロシアを挟んで8,000kmもの距離がある。リトアニアと言えば、戦間期の駐カウナス領事代理で、多数のユダヤ人難民に「杉原ビザ」を発行した杉原千畝が駐在していた国として馴染みがある。カウナス市では杉原が駐在していた当時の日本領事館の建物が現存し、「杉原記念館」として一般公開されている。
 現在、我が国は2022年10月、首都ビリニュスの在リトアニア日本国大使館に戦後初の防衛駐在官を置き、自由・民主主義、基本的人権の尊重、法の支配という普遍的価値を共有する同志国としての「戦略的パートナーシップ」を結び、防衛協力を深めている。
 一方、リトアニアは中国との対立がある。対立の発端は2019年2月、リトアニア国家安全保障省がその脅威評価報告書の中でロシアと並んで、初めて中国を「安全保障に有害な国」として取り上げた事にある。中国国家安全部と人民解放軍の軍事情報部のリトアニア国内での活動拡大可能性に警鐘を鳴らした。また、同時期に計画されていた、リトアニア有数のクライペダ港の開発に対しての中国からリトアニアへの投資が安全保障の根幹を揺るがしかねないとして、ナウセダ大統領が強い危機感を示した。さらに香港民主化デモにおいて、19年夏に香港民衆の一部がリトアニアを含むバルト三国の国民が当時のソ連の強権支配に対して最北端のエストニアから最南端のリトアニアまでを人間が手と手を繋いで結ぶ事で対抗した「人間の鎖」を模した行動を起こし、これにバルト三国の国民の多くが連帯を表明した事に中国は猛反発した。
 2001年、中国と同じ年に世界貿易機関(WTO)に加盟したリトアニアは、2012年に発足した中国と中・東欧および西バルカン諸国による経済協力の枠組みである「17+1」(中国中東欧首脳会議)の原加盟国だった。しかし中国はWTO加盟以降、「17+1」を通じてリトアニアに対する経済的圧力を続けてきたために両国の対立が激化。リトアニアは21年5月、これを離脱した。
 リトアニアは同年11月、台湾の駐リトアニア大使館に相当する代表処を開設、翌22年11月にはリトアニア側も台湾に代表処を開設した。リトアニアを含むバルト三国に対する中国の強硬姿勢は今も変わっていない。23年4月、中国の駐仏大使はかつてソ連から独立を回復したウクライナやバルト三国に関して「主権国家であることを定めた国際的な合意はない」と発言。リトアニア外務省は中国の代理公使を呼び、この発言に対する説明を求めた。
 「台湾有事は日本有事、そして日米有事」である。台湾のみならず東アジア情勢全体を理解しようと努力してきたリトアニアは今後もNATO諸国に存在する心強い同志国として日・台と協力機会を拡大していくことだろう。
 
リトアニア国旗・日本国旗・EU旗を囲んでの一同。
ジーカス特命全権大使(右端)、長野事務局長(中央)、
アブケヴィツィウス大使館付防衛顧問(左端)。