米国のトランプ政権は軍事力の大幅増強という基本政策を打ち出しているが、その政策の一般米国民への影響の広がりを示すように陸軍への応募者が近年では珍しい急増を示したことが明らかとなった。この変化の背景には民主党のバイデン前政権下で米軍全般の要員の「多様化」が屈折した形で軍隊への一般の人気を減らしてきたという経緯があることも指摘されている。トランプ政権下での米軍人気の復活はトランプ大統領の「強いアメリカ」や「力による平和」という基本戦略の反映だとも解釈されている。
米国では6月14日、首都ワシントンで盛大な陸軍記念日のパレードが挙行された。米国陸軍の創設250周年を記念して、創設以来の種々の部隊が歴史の展示という意味をもこめてワシントンの主要通りを行進した。米軍全体の最高司令官であるトランプ大統領が閲兵し、全米から集まった支持者や観衆数万人が声援を送った。
他方、日ごろから軍隊への忌避傾向のある民主党リベラル派はこの軍事パレードを税金の無駄遣いだなどとして批判した。とくにこの6月14日がたまたまトランプ大統領自身の誕生日だったため、民主党側からは公私混同だという非難も出た。
しかし米国陸軍省が6月中旬に発表したところによると、陸軍の新年度にあたる2026年度の入隊応募者が予想より早く、かつ多くなって、予定の目標の61,000人に達した。2026会計年度は2025年10月1日から始まるが、近年の陸軍ではその目標人数に達しないことや、たとえ達しても年度末ぎりぎりの9月末にやっと定員に達することがほとんどだった。だが今年は期限切れの4ヵ月も前の6月始めに年度の定員数に到達した。
米国陸軍は米軍全体でも最大規模を有し、制服の軍人が総数約95万人、そのうち現役の戦闘要員が45万、州兵が33万、予備役が17万となっている。米国ではいまは軍隊への徴兵はなく、すべて志願制となっている。
トランプ政権の陸軍の今回の早期応募者満員について現在のダン・ドリスコール陸軍長官は「前回の2025年度の募集目標は55,000人だったが、期限切れ直前になってやっと応募数がその水準に達した。だが今年は期限よりも4ヵ月早く、しかも前年度より6,000人も多く、応募者が集まった。この変化はトランプ大統領の軍事政策の成果だ」と述べた。米国陸軍はバイデン政権下の2022年、2023年いずれも応募が募集を予定した人数に達しなかった。しかも応募が期限前の数ヵ月の時点で募集予定数に達したのは前回は2014年だったという。だから陸軍としては11年ぶりの快挙というわけだ。
今回の応募者激増の理由について国防総省の報道官ジェフ・トルバート大佐は「バイデン前政権下での米軍全体に対する多様化促進の政策が変更されたことが大きい」と述べた。バイデン政権の多様化とは「Diversity, Equality, Inclusion(多様、平等、包括)」という標語の下に軍隊を含む政府機関に女性や少数民族、性的少数者(LGBT)を一定比率、採用することを義務づける政策だった。その結果、米国陸軍にも史上初めての文官の女性が長官として任命され、その多様化政策を積極的に進めた。しかし陸軍では女性や性的少数者の採用は年来の基礎体力検査の水準を保ったのではパスする人材が少なく、その検査の水準をあえて引き下げて、女性や少数民族の雇用を増やすという作業が実施された。
このバイデン政権の動きに対してトランプ陣営や共和党議員の多くは「多様化の強引な推進のために従来の軍隊としての戦力が低下する」とか「性的少数者の積極採用のために軍隊の雰囲気や規律が緩くなり、一般の応募者の意欲を衰えさえる」という批判が起きていた。こうした意見を受けた形でトランプ大統領は就任後、まもなく軍隊をはじめとする連邦政府機関へのバイデン政権の多様化政策をほぼ全面的に撤回する措置をとった。国防総省のトルバート報道官によれば、この多様化政策の撤回も陸軍入隊の希望者の数を急増させる原因になったというわけだ。