米国のドナルド・トランプ大統領の10月末の訪日に伴う高市早苗新首相との会談は大成功と評してよいだろう。両国首脳が防衛の絆の強化を誓い合い、経済領域でも日本の巨額の対米投資を具体的な企業名をあげて合意するという展開は、両国の連携が相互の国益に資するという観点からは確実に歓迎できる動きだった。
この会談の成果を判断する有力な材料はやはりトランプ、高市両首脳が横須賀基地の米海軍の巨大空母「ジョージ・ワシントン」の艦上に並んで立ち、日米同盟の深化を誓い合った光景だった。10月28日、両首脳が米海兵隊が運航する大統領専用のヘリコプター「マリーン・ワン」に搭乗して横須賀に向かうというのも異例だった。
1万数千の乗組員を前にトランプ大統領が高市首相に向かい、「もしあなたがいかなる疑問、要請などがあれば、知らせてください。日本を支援するためには何でもします」と、アドリブで述べた言葉が象徴的だった。トランプ氏の高市首相へのごく自然な連帯の言葉だった。同大統領は「米日両国は最強次元の同盟同士なのです」とも述べた。
トランプ氏は高市氏とは初対面だったとはいえ、当初から親近感や寛ぎを見せていた。トランプ氏は日ごろ笑顔を簡単には見せない。肩の力を抜くことも少ない。だが高市首相と並んで行動するトランプ氏はごく自然な笑顔を浮かべ、肩の力も抜いて、快適なボディ・ラングエイジ(体が自然と発する言語)でもあった。ワシントンで日常、目にする姿よりもゆったりしているのだ。やはり自国の主権や利益を優先するという保守志向同士の共鳴だろう。トランプ氏が直接に語ったように高市氏については安倍晋三氏からも、日本の政治に詳しい側近からも、よく知識を得ていたことは明らかだった。石破茂前首相への挙措とは雲泥の違いだった。
トランプ氏は高市氏について首脳会談の前から「知恵と強さをあわせ持つ非常に尊敬できる人物だ」と述べていた。東京での首脳会談を終え、韓国へ向かう機内でも「高市首相はとても鋭く、賢く、活気にあふれていた」とも語った。
トランプ政権内でも、安倍政権時代からの日本政情に詳しいマルコ・ルビオ国務長官は「高市政権は日米同盟を増強し、経済的な繁栄をもたらし、地域の安全保障を強化するだろう」と、期待にあふれる言葉を述べていた。
トランプ陣営の政策研究機関ともいえる「米国第一政策研究所」(AFPI)のフレッド・フライツ副所長は「高市新首相は国際秩序の改善に寄与する」という趣旨の論文を発表した。高市氏の日米同盟だけでなく中国の軍事攻勢や北朝鮮の軍事冒険に対する年来の姿勢を辿って、その基本は自由民主主義や法の支配に基づく従来の国際秩序の堅持を目指すだろう、と考察していた。
米国側の多数派、つまりトランプ陣営や同政権を支持する共和党議員が多数を占める連邦議会の上下両院でも高市首相への前向きな反応は一致している。民主党側の政治家たちは特に論評をしない。トランプ政権の政策にはほぼ全て反対する民主党側も、こと日本との関係となると、日米同盟堅持という基本には賛成である。だから高市氏が登場して、改めて日米同盟を新たな高みへ引き上げると言明しても、反対は唱えないわけだ。
ところが米国の大手メディアはまるで異なる反応を見せた。かねてから民主党びいき、トランプ叩きで知られるニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビといったメディアである。ニューヨーク・タイムズはまず高市首相を「右翼」と呼び、「歴史問題で修正主義の傾向をみせる」と断じていた。いずれも中国側の主張を根拠とする断定だった。同紙は「今回の首脳会談は日米同盟の保持を謳っただけで、関税問題など経済領域の課題は何も解決しなかった」とも報じていた。トランプ大統領が東京で日本の財界首脳を招き、米国への巨大な投資計画の言質を確認したことなど、無視なのだ。
ワシントン・ポストも2本の記事で「高市氏は極右」、「超保守主義者」、「扇動的な政治家」、「歴史修正主義者」、「女性の社会進出を阻んできた」などとネガティブな記述を満載していた。日本国内でも、自民党内で高市氏の支援者が多く、政策面でも実績を重ねてきたという側面はほとんど無視だった。特に「歴史修正主義」とか「女性の進出阻止」という非難は具体的な根拠を挙げず、「専門家がそう述べている」という曖昧な記述だった。
この主要メディアの明らかに偏向と呼べるゆがめ報道の理由は、第1に民主党リベラル派支持の体質として高市氏が保守というだけで「極右」というレッテルを貼る傾向だと言える。ニューヨーク・タイムズは特に安倍晋三氏への糾弾が激しかった。
第2の理由は、これら民主党支持メディアのトランプ攻撃の基調である。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNなどはトランプ政権の政策にはほぼ全て激しい反対の意見を表明する。トランプ糾弾の民主党リベラル派の主張を一貫して優先報道する。その宿敵のトランプ氏が緊密さを誇示する高市首相にも似たような批判の矛先を向けるわけだ。
だが保守派からのこの種の大手メディアへの批判も辛辣である。一例として共和党主流のフロリダ州知事、ロン・デサンティス氏の最新の論評を紹介しておこう。
「CNNが日本の高市早苗新首相を『強硬保守』と呼んだ。リベラル派の視聴者に彼女を嫌わせるためのレッテル貼りだろう。だが現実にはCNNに嫌われる人物は好ましい人に決まっている」