高市政権は前途多難か、平和と安定のための富国強兵を

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政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷昌敏

 2025年10月21日、高市早苗氏が第104代首相に指名された。日本の憲政史上、初の女性総理であり、熱心な勉強家で努力家でもある。その突破力には見るべきものがあるが、その道はいばらの道となるかもしれない。
 
公明党の連立離脱
 総理就任前から、26年間連立を組んでいた公明党が離脱した。公明党の離反により、一時は総理指名も危ぶまれ、少数与党の苦悩が垣間見られた。公明党離脱の理由は、自民党に対して「企業・団体献金の規制強化」や「政治資金不記載問題の全容解明」などを強く求めたが、自民党側の回答は「今後検討する」といった曖昧なもので、公明党の斉藤鉄夫代表は「政治改革の決意が見えない」と断じた。特に裏金問題で批判を受けた萩生田光一氏が幹事長代行に留任したことに対し、公明党は「刷新の姿勢が見えない」と反発し、高市氏の保守色の強い政治姿勢(靖国参拝容認、外国人政策など)も、公明党のリベラル寄りの立場と相容れないとされた。さらに斉藤代表は、「高市総理は独裁」とまで言い切った。
 公明党との信頼関係が崩壊した理由は、高市氏が総裁就任後、公明党に挨拶に行かなかったことが一つの原因とされたが、後に誤報と分かった。また、高市氏の自民党総裁就任直前に公明党斎藤代表は、呉江浩駐日大使と面会していたとされ、その内容に注目が集まった。斉藤氏は、あるYouTube番組でインタビューを受けた際、「中国大使は高市氏をどう評価していたか」と問われると、斉藤氏は「それは控えさせていただきたい」と回答を避けたが、この沈黙が「何かやましいことがあるのでは」とネット上で憶測を呼び、「外交問題だから言えない」という説明に疑問の声も上がった。一部では「高市政権の憲法改正やスパイ防止法に対する中国の懸念が背景にあるのでは」との見方もあり、公明党が連立離脱を決断した理由は、本当は「政治とカネ」よりも「高市路線への牽制」にあるのでないかとの憶測も生まれた。なお、中国の呉駐日大使は、2024年に台湾問題について「中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」などと過激なコメントをしたことでも知られた人物である。
 
マスコミの過剰な反発
 2025年10月7日、自民党本部での高市総裁の記者会見直前、日本テレビのYouTube生配信で、報道関係者とされる人物が「支持率下げてやる」「支持率が下がるような写真しか出さねーぞ」との発言が偶然、音声として発信された。後に発言した人物は時事通信社のカメラマンと判明した。この事件は「報道による世論操作」との不信感を象徴するもので、「報道の公平性に疑念」「女性総理への嫌がらせか」「マスコミは傲慢」との批判が多発した。もともと高市総理の政策は、靖国参拝容認、スパイ防止法推進など、リベラル系メディアと摩擦を生みやすく、「マスゴミ」「印象操作」といった言葉が高市支持層から頻繁に使われ、対立構造が強調される傾向があった。さらに性別による偏見や報道の扱い方に対する問題提起もあり、ジェンダー論的な緊張も含んでいる。そのため複数のメディアが敵に回った。おそらく、高市総理のタカ派的発言、故安倍総理の継承路線などが気に入らなかったのだろう。高市総理の靖国参拝を問題視する意見があるが、自国のために亡くなった人々を時の最高権力者が弔うのはむしろ当たり前のことだ。東京裁判で戦犯となった人々が合祀されているのが問題というが、米国が行った非武装市民への無差別爆撃や原爆投下も人道の罪以外の何ものでもない。裁判前から判決が決まっていたといわれる戦勝国による一方的な裁判を正当な裁判と認めるのはいかがなものだろうか。
 対立相手にレッテル貼りをして印象を作り、相手を押さえつけたり、貶めようとすることはよくあることだが、民主主義の下、中立であるべきマスコミがやっていいことではない。戦後、80年を経ながら、GHQによる日本弱体化の諸政策、日教組の偏向教育、コミンテルンやロシア・中国・北朝鮮による影響力工作など、メディアは未だに反体制、反政府、反権力が使命という偏ったイデオロギーに取り込まれている。政治は国民のためにあるのであって、メディアが作り上げた幻想のためにあるのではない。
 
期待される外交政策
 高市総理の外交面はどうだろうか。
 高市総理は就任演説において、「世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す」と宣言し、外交政策を国家再建の柱の一つに位置づけた。この言葉には、過去の消極的な外交姿勢からの決別と、積極的な国際関与への意志が込められている。
 就任直後の2025年10月には、早速、日米首脳会談に臨み、トランプ大統領との個人的な信頼関係の構築が注目された。高市総理は故安倍晋三氏のゴルフパターを贈るなど象徴的な演出を通じて、日米同盟の継続性と親密性をアピールした。また、米第7艦隊の旗艦であり、インド太平洋の安全保障の象徴である原子力空母「ジョージ・ワシントン」艦上で、6000名の米兵を前にして、「日本の防衛力を抜本的に強化し、地域の平和と安定に積極的に貢献する。自由で開かれたインド太平洋戦略を引き継ぎ、安倍元総理の決意を継承する」と明言し、拳を突き上げ笑顔で米兵たちに応えた。このような「個人外交」は、安倍外交の後継者としての力強さを強調しながらも、女性ならではの柔らかさを加味した高市流の新たな外交スタイルといえる。
 対中政策においては、APEC首脳会議で習近平国家主席と笑顔で挨拶を交わすなど、非公式な場での柔軟な対応も見せた。日中首脳会談では、「尖閣諸島を含む東シナ海の問題、レアアースなどの輸出管理の問題、邦人拘束についての懸念、中国在留邦人の安全性の確保」、「南シナ海での行動、香港や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの状況に関しての深刻な懸念」などを率直に習近平に伝えた。対北朝鮮政策では、高市総理は北朝鮮の核・ミサイル開発、そして日本人拉致問題に対して「手段を選ばない」と明言し、11月には「金正恩氏と直接会談したい」と申し入れていることを明らかにした。
 
 日本を取り巻く国際関係は極めて複雑で厳しいが、高市外交は米中対立の狭間で日本が独自の戦略的立ち位置を確保し、地域の安定に貢献できる重要な布石である。今後は、理念と実利のバランスを取りながら、国益に資する政策を内外に示し、決して諦めない心で日本復活を目指すことを高市総理に大いに期待したい。