米国のトランプ政権によるイラン攻撃が中国の対外膨張力を弱めるという指摘がワシントンでは頻繁に聞かれるようになった。イランに長年、軍事や経済の援助をして、反米の共同姿勢をとってきた中国が危機に追い込まれたイランを支援できず、さらに自国の主要エネルギーとしてきたイラン産の石油の調達も難しくなったというわけだ。
ワシントンでは3月19日に開かれた日米首脳会談も中国への抑止効果を発揮したとする見方が出ていた。ハドソン研究所の特別研究員で国際戦略研究の重鎮ウォルター・ラッセル・ミード氏や民主主義防衛財団(FDD)の特別研究員で大統領補佐官や国務、国防総省高官を歴任したルイス・リビー氏らがその種の見解を明らかにしていた。トランプ・高市両首脳の日米同盟の強化の宣言は年来、日米両国の離反を図ってきた中国にはまずマイナスとなり、今後の中国の地域的な膨張にも抑止の効用を発揮する、という見解だった。
この種の見解と同一路線なのはトランプ政権の今回のイラン攻撃がそもそも中国への深刻な打撃だとする考察である。この考察はワシントンの専門家たちの間で公然と語られるようになったが、その種の見方を総括する、わかりやすい論文が3月16日の大手紙ウォールストリート・ジャーナルに掲載された。「中国は米国・イスラエルの対イラン戦争で失うところが大だ」という見出しのこの論文は副見出しでは「中国は自国への石油供給とイランへの武器供給者とパートナーとしての評判の両方で深刻な有害に悩んでいる」と記していた。
この論文の筆者は中東研究を主体とする米国の研究機関「マディソン政策フォーラム」のジョン・スペンサー代表だった。スペンサー氏は米陸軍でイラクなど中東各地での軍務経験を積んだ元大佐で、退役後はイランを含む中東情勢の戦略的研究を重ねてきた学者である。
同氏の論文の骨子は以下のようだった。
▼中国は近年、イランが輸出する石油の90%ほどを購入し、国連の制裁下のイラン経済の立て直しに寄与してきた。中国が輸入する石油全体の45%はホルムズ海峡を通過する。このため米国のイラン攻撃によるイラン石油の輸出激減やホルムズ海峡の封鎖は中国自体にも重大な被害を及ぼす。
▼中国とイランは2021年に25年間有効の「戦略的パートナーシップ」という協定を結び、中国が合計4千億ドルの投資の支援を約束した。この協定は中国側の一帯一路の一部で、イランがその主要拠点となり、中国の資金による空港、鉄道、道路などのインフラを国内に建設し始めた。
スペンサー氏の論文は以上のように、まず中国とイランとの大規模な経済連携が米国のイラン攻撃によって崩され、イラン経済の崩壊とともに中国側のエネルギー源保持への阻害ともなることを指摘していた。同論文はその上で中国とイランとの軍事協力についても言及していた。
▼イランは中国から弾道ミサイル数百基や弾頭多数を輸入しており、さらにこれから大量の対艦攻撃巡航ミサイルを購入するところだった。この種の中国起源の各種ミサイルはイラン側で今回の米国から攻撃への反撃にも多数使われたが、その軍事的効用が高くないことが判明した。
▼中国は米国が最近、攻撃した南米へのベネズエラへも近年、軍事、経済の大規模な援助を与えてきた。その背後には反米勢力同士の連携があった。だがベネズエラでもイランでも中国は米国の攻撃を直接に抑えるような支援はまったく実行しなかった。このことは世界規模の反米勢力の中国への依存を揺るがす。
▼トランプ政権は最新の国家安全保障戦略のなかでも、中国のグローバルな反米戦略に対して多国間の働きかけによって抑止を試みるべきだと説いているが、今回のイラン攻撃はまさにイランへの攻撃によって中国のグローバルな覇権追求への模範的な抑止となった。
反米国家にとっては米国に攻撃された際の中国の支援は外交用語だけの範囲を出ないという現実が国際的に示されたことにもなる。この種の玉突き的な中国抑止の効果は今回のトランプ・高市首脳会談でも明示されたわけだった。だから日本にとっては二重、三重の意味でトランプ政権のイラン攻撃に反対する実利的な理由は何もない、ということにもなるだろう。