中朝の急接近とこれからの北東アジアの安全保障

.

政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷昌敏

 報道によると、北朝鮮訪問中の習近平主席は、6月9日、金正恩総書記と共に朝鮮戦争に参加した中国義勇軍を称える「友誼塔」を訪れた。台座で献花し、1950年代の朝鮮戦争を共に戦った「血で結ばれた同盟(血盟の絆)」の中朝関係を誇示した。そして両首脳は米国に対抗し、北朝鮮を支援する「抗美援朝」の精神を発揚していくと申し合わせた。今回の会談で、習近平は金正恩に「双方は外交、法執行、軍隊などの交流を強めなければならない」と提起し、台湾や朝鮮半島の問題を念頭に「それぞれの主権や安全を断固守るべきだ」と呼びかけた。
 ロシアがウクライナへ軍事侵攻した2023年以降、北朝鮮がロシアへの軍事支援を強め、中朝関係は冷え込んでいた。中国は国際社会からロシアや北朝鮮と同一視されることを嫌い、露朝の軍事協力に距離を置いてきた。そのため、北朝鮮はますます中国から離れ、ロシア支援に前のめりになっていった。
 
中国と北朝鮮の血盟の絆
 一方、中国と北朝鮮は、歴史的にも強い関係性を持つ。朝鮮半島は古くから中国の影響を強く受けており、中国と政治的・文化的な交流を続けてきた。1945年の第二次世界大戦終結により、日本の統治は終了し、朝鮮半島は解放された。1949年に中国が共産党政権を樹立すると、北朝鮮との関係が強化された。当時、北朝鮮を支配していた金日成は、1950年6月25日にソ連のヨシフ・スターリンと中国の毛沢東の同意と支援を取り付け、事実上の国境線と化していた38度線を越えて韓国に侵略戦争を仕掛け、ここに朝鮮戦争が勃発した。
 朝鮮戦争は当初、朝鮮人民軍が優勢であったが、米軍を主体とした国連軍の仁川上陸作戦により形勢は逆転し、国連軍は平壌を占領、一部部隊は鴨緑江の線に達した。1949年に成立したばかりの中国は当初介入に否定的だったが、米国との全面戦争(第三次世界大戦)によって朝鮮半島を超えてソ連や中国の領土まで巻き込まれる可能性が出てきたため、中ソ友好同盟相互援助条約に基づいて、中国人民解放軍は、表向きは義勇兵として「人民志願軍」と名乗って参戦した。中国人民志願軍の兵力は約120万人に達していたが、うち約100万人が戦死傷・病死とされ、1958年までに全軍が中国に撤退した。
 中国人民志願軍が最初に戦闘を行った10月25日は「抗美援朝義勇軍記念日」とされており、平安南道檜倉郡の「中国人民志願軍烈士陵園」は、中朝間の「血盟の絆」の象徴となっている。
 
中国と北朝鮮の亀裂
 「血盟の絆」で結ばれる中国と北朝鮮は、1961年、中朝友好協力相互援助条約を締結した。この条約では、北朝鮮または中国が武力攻撃を受けた場合、相手国は軍事的に援助する義務を負うという相互援助を約束している。この条約により中朝は事実上の同盟関係にあり、条約は自動延長方式で、20年ごとに自動延長される。これは現在の中国が締結した唯一の相互防衛条約であり、中国外交において極めて異例な条約である。
 こうした「血盟の絆」や「相互援助条約」がありながらも、金正日の後継者となった金正恩は決して中国への警戒感を解かなかった。小国が大国の勝手な理屈で命運を左右されることは国際関係では常識だからだ。事実、2018年、当時のポンペオ米CIA長官が平壌を訪問し、金正恩に会った際、ポンペオ氏が「中国共産党は以前から『在韓米軍が韓国を離れれば金委員長は喜ぶはず』と主張している」と話すと、金正恩は「中国人は嘘つきだ。中国共産党から自分たち(北朝鮮)を守るために韓国内の米国人(米軍)が必要だ。中国共産党は朝鮮半島をチベットや新疆のように扱うために(米軍が邪魔なので)米軍の撤収が必要だと主張するのだ」と答えたという。さらに新型コロナウィルスで中朝関係の相互交流が途絶えた際、金正恩は中国による救済物資の支援を期待していたが、中国は国連の制裁を恐れて支援を行わなかった。
 
中朝関係に割って入ってきたロシア
 こうした中朝関係の亀裂に割って入ってきたのがロシアだ。
 2022年2月にウクライナへ侵攻したロシアは、当初、短期間にウクライナを屈服させると考えていた。だが、予想外に苦戦する戦況を覆すためにプーチンは、北朝鮮と手を繋ごうとした。
 北朝鮮は、2023年9月以降、 砲弾・ロケット弾・ミサイルの大量供給に踏み切った。2万超の軍需品コンテナを鉄道と船舶でロシアへ輸送し、900万発規模の砲弾・ロケット弾を供給し、100発以上の弾道ミサイルをロシアに提供した。その後、北朝鮮は兵士をロシアに派遣して戦闘に参加させ、2024年末までに11,000人超を派遣した。2025年1~3月に追加で3,000人以上が派遣されて計 14,000人以上がロシアに入り、クルスク州などでロシア軍と共同戦闘を行った。結果、北朝鮮兵は2,000人以上が死亡したとされるが、単なる歩兵戦闘だけではなく、無人機の運用方法など近代戦闘について習熟したと言う。また労働者8,000人分のビザをロシアに申請(2024年)し、2025年前半に「数千人規模」の労働者派遣を計画した。
 反対に北朝鮮は、タンカーが100万バレル以上の石油精製品をロシアから受領(2024年3~10月)し、これは国連報告量の数倍で、制裁逃れと指摘された。加えてロシアは北朝鮮に弾道ミサイルのデータのフィードバックを提供し、これは北朝鮮のミサイル精度向上に大きく寄与した。このほか、核弾頭の小型化、極超音速滑空弾頭、固体燃料ICBM、軍事偵察衛星、防空システム、ジャミングシステムなどの各技術を北朝鮮側に移転したとされる。
 こうした両国の相互支援体制は、2024年6月に署名された「包括的戦略パートナーシップ条約」によって制度化されたもので、「相互軍事支援義務」(事実上の同盟) が取り決められていた。 一方の国が戦争状態なら、他方の国は「全ての手段」で軍事支援をするという内容で、北朝鮮はこの条文を根拠に兵士派遣を正当化した。
 
日本の安全保障政策は
 中国としては、地政学上、未だに北朝鮮を重要な地域と見做しているものの、北朝鮮がロシアとの結び付きを益々強めていけば、寧ろ中国の平和と安全が負の存在になりかねない。
 そのため、今回、中国は北朝鮮とロシアの関係に楔を打ち、再び自国のコントロール下に北朝鮮を置こうとしたのだ。日本がこうした北東アジアの不安定化に備えて、安全保障や経済安全保障政策を強化し、インテリジェンスの目を各地に張り巡らすことは、極めて当然のことだ。日本を取り巻く安全保障環境の劇的変化に対応した柔軟な政策に期待したい。