日本主導による中国包囲網に反発する中国のレアアース規制と日本人社員の逮捕・拘束

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政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷昌敏

 報道各社は、6月26日、「日本の大手企業の社員2人が、レアアース磁石を製品に組み込んだ状態で中国から輸出し、日本国内で製品からレアアース磁石を取り出そうとした疑いが持たれている」と報じた。
 関連情報を取りまとめると、富士電機の現地幹部と出張者日本人2人が、1人目が5月18日、2人目が25日に、それぞれ中国・遼寧省大連市で『国家輸出入禁止貨物密輸罪』(中国刑法151条3項)違反の疑いで拘束された(6月に入り逮捕)。
 中国当局は、2人が製品に組み込まれたレアアース磁石を日本で取り外す行為を「レアアースの密輸」と認定した可能性が高い。従来は「取り外しできない加工品は輸出規制の対象外」という業界慣行があったが、今回中国は「分解すれば取り出せる可能性がある製品」も密輸とみなす厳格解釈を採用したようだ。これは通常の輸出業務が突然「密輸罪」とされ得る危険性を示す。ちなみに同罪は5年以下の懲役や罰金を規定しているが、重大事案と判断されれば5年以上の懲役となる可能性もある。
 こうした取引が行われるようになった背景には、最近の中・日関係の急速な悪化に伴うレアアース規制の強化がある。中国税関総署(海関総署)によると、今年5月の対日レアアース磁石輸出量は123トンで、前月比34.6%減少した。同期間の中国の世界全体への輸出量の減少幅(7.7%)と比べても、際立って大きい。(共同通信)
 中国は昨年11月、高市早苗首相による「台湾有事」に関する国会答弁に反発し、今年1月にレアアースなどの対日輸出規制を強化した。特に、高性能磁石に添加されるジスプロシウムやテルビウムなど、電子機器や自動車の製造工程に不可欠な重レアアースが規制対象となったことで、日本の電気自動車(EV)や産業機械用モーターの生産にも支障が生じている。中国は世界のレアアース生産の約70%を占めているうえ、重レアアースは中国国外で採掘・生産することが難しいため、日本がどれだけ「脱中国」を急いでも、短期間で供給網を代替するのは容易なことではない。
 
さらなる輸出規制
 中国商務省は6月29日、防衛省防衛研究所や三菱電機子会社など20の日本企業・団体を輸出規制リストに追加したと発表し、軍民両用品目の輸出を即時禁止した。リスト掲載は2月下旬の公表分と合わせて計40の企業・団体に拡大した。高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁への対応措置を再強化した。日本原燃など20の企業・団体については、輸出審査を厳格に行う監視リストに追加した。同リストも計40社・団体となった。商務省は「2月のリスト公表の目的は再軍備化と核保有の企てを阻止することにあったが、残念ながら反省どころか誤った道をさらに進んでいる」との報道官談話を出した。
 2月のリスト公表時、商務省は公告発表の背景について、日本の「再軍事化」や核保有を目指す動きの阻止を目的としたものとした上で、当該措置は完全に正当、合理的かつ合法であると述べている。また、今回のリストに掲載されていない日本の事業体が、日本の軍事ユーザー、軍事用途、あるいは日本の軍事力向上に寄与するその他一切のエンドユーザー・最終用途に関係する場合、商務部公告2026年第1号に基づき、両用品目の輸出を禁止するとした。その上で、中国側がリストに掲載しているのはごく一部の日本の事業体に限られ、措置の対象も両用品目に限定されており、日中の通常の経済・貿易関係に影響を与えるものではなく、法令を順守している日本の事業体は心配する必要はないと説明している。(JETRO)
 
中国は心理戦を仕掛けている
 こうした一連の規制が高市総理の「台湾有事は日本有事」という国会答弁に対し、中国側が強く反発した結果だということは明らかだ。中国側は、「中国の主権を侵害し、内政干渉だ」と強く批判してきた。その後も高市政権は、日本の防衛費GDP比2%達成・装備移転三原則の緩和など、対中抑止を意識した政策を継続して実行している。
 中国側は、「台湾有事」を前提に防衛力を高める日本に対し、その防衛産業の「血管」である中国製部材・素材・技術を締め上げる方針である。日本が台湾有事を前提に防衛力を増強していることは、中国にとって大きな軍事的リスクだとの認識を持っている。
 ただし、直接日本に軍事的圧力をかけるならば、米国・同盟国を巻き込んだ大きな対立になりかねない。そうした事態を避けるために「輸出管理」という合法的な枠組みで日本の防衛産業のボトルネックを突いてきている。
 つまり、中国側は、台湾有事を前提にした日本の安全保障政策を抑止するため、経済を使った心理的・政治的な威圧に出ていると解釈できる。
 
めげない高市政権
 中国は、最近、バングラデシュ、モンゴル、カンボジア、ラオスなどの友好的な国家に、「日本の軍国主義復活は地域にとって危険」などと対日批判を繰り返させており、周辺国家を巻き込んで日本を国際的に孤立させようと図っている。さらに今回6月に再度のレアアース輸出規制を発表し、同時に日本人社員2人を拘束したことは、これまで中国側が強く何度も日本を「新型軍国主義」などと批判し、レアアースなどの資源規制を実施したにもかかわらず、高市総理がG7の場などで主導的立場をとり、明確に対中包囲網を築いてきたことに対する強い反発にほかならない。
 例えば、6月15日にイタリアで開かれたG7首脳会議では、参加国が一致して、中国の「過剰生産」「不公正補助金」を名指しで批判した。このようにG7が中国の産業モデルそのものを「構造的脅威」と認定したのは初めてのことだ。さらに特筆されるのは、輸出規制や経済制裁など中国の行動を「経済的威圧」と定義して非難したことが声明に盛り込まれたことである。これは日本が中国から受けている輸出規制を指しているのは言うまでもない。
 こうした日中対立がどこまでエスカレーションするのか予断を許さないが、レアアースの規制がかえってG7各国の連帯を促し、中国への依存度を下げていく結果になっている。このままで行けば、中国政府は、さらなる輸出規制の強化と日本人の拘束を続けていかざるを得なくなる。中国の経済衰退のさなか、これ以上の日本企業の撤退は中国にとって決して得策ではないことは明らかだ。