朝日新聞の慰安婦誤報が人気小説の主題に

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 譽田哲也氏と言えば、近年の警察小説の人気作家である。特に警視庁捜査一家の敏腕かつ魅力あふれる姫川玲子という女性刑事を主人公としたシリーズが好評だった。そんな一般向けの小説、つまりフィクションの中に大新聞による慰安婦問題の誤報を主題とした新作があることに興味を惹かれた。
 国際的に日本を不当に貶める結果となった慰安婦問題での大手メディアの虚報や誤報がこうした小説の正面からのテーマになっている点に一種の健全さを感じたのだった。虚報の「虚」をきちんと指摘し、そのミスが起こした被害をも主題としているのだ。この小説は当然ながら巻末で「この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とはいっさい関係ありません」という注釈をつけている。
 だが文中では慰安婦問題での最大の虚偽を伝えた吉田清治という人物の名前やその虚偽の舞台となった韓国の済州島の地名を事実のままに記していた。この虚偽とは「日本の軍隊や政府が戦時中に朝鮮半島や中国の女性を組織的に強制連行して日本軍将兵への性行為を強制した」という趣旨だった。だが現実には日本の軍や政府が女性を強制的かつ組織的、政策的に連行した事実はまったくなかった。吉田清司という人物が済州島でその強制連行を目撃し、参加したという主張は捏造だったことが判明した。
 
 誉田哲也氏のこの新作の小説「マリス・アングル」(悪意ある角度、ゆがめという意味)はそのあたりの経過を事実通りに書いていた。しかも「朝陽新聞」という大手新聞がその虚偽を事実として報じた主犯だという点も明確にしていた。その虚偽のために殺人や誘拐という凶悪犯罪が起きたという物語だから、この小説のそもそもの基点は虚報への断罪だとも言える。
 小説では慰安婦問題の虚偽を広げたその大手新聞は「朝陽新聞」とされていた。だがその新聞が誤報を認め、大々的な記事の訂正や撤回をしたことも記されていた。この点を現実の展開にあてはめると、朝日新聞がごく自然に浮かんでくる。そんな虚報や訂正を残したメディアは他にないからだ。だからこのフィクションは奇しくも朝日新聞の虚偽報道への峻烈な糾弾ともなっていた。
 この小説のあらすじは、日本で居住する朝鮮半島が出自の人たちの間での残虐なせめぎあい、殺し合いだった。北朝鮮に近い人たちが韓国系の在日集団に対して、日本軍による不当な慰安婦強制連行を許したのは民族の恥だとして、攻撃をかける。その攻撃は殺人にまで発展する。だがその「日本軍による不当な慰安婦強制連行」がでっちあげの虚構だったと判明する。すると今度はその虚偽を広げた新聞社や北側支持の側に対する報復が実行される。ざっとこんなフィクションなのだ。だが要点はそのフィクションを立脚させる土台がみな事実なのである。
 作者の誉田氏はこの小説の中で正義の側に立って問題を解決させる主人公の言葉として以下の記述を載せていた。
 「慰安婦問題なんてのは、朝陽新聞が仕掛けた反日運動ですよ。吉田清治という男が書いた小説を真に受けて・・・嘘と知って分かっててやったんだか知らないけど、朝陽新聞が書いたわけ。戦時中に日本軍は朝鮮人女性を強制連行して、軍の管理のもとに売春をさせてたって。それをわざわざ善人面した日本人の弁護士が焚きつけたの。日本軍はこんなひどいことやってたんだから、日本政府を相手取って裁判をやりましょう、やりましょ、やりましょ、って。わざわざ半島まで乗り込んで・・・その弁護士いま何やってるか知ってます? 皆さんご存じのあの政党から出馬して政治家になって、今はなんと、そこの党首をやってますよ」。
 
 以上のような指摘がこの小説の骨子なのである。
 慰安婦問題なる展開では繰り返すが、日本の軍隊や政府が一般女性を強制連行したというような事実はなかったのだ。そもそも売春という行為自体が現代のように違法ではなかった時代の現象だったのである。しかし道義的にはいつの時代でもセックスをカネで売り買いする行為は非難されてしかるべきだろう。この点は近年の日本政府も認め、謝罪してきた。しかし戦時中の慰安婦はあくまで本人側の希望が基礎となる商業行為だった。当時、家族が貧しく、借金に悩まされ、やむにやまれず軍人相手の性的行為提供に応募する不運な女性も多かっただろう。だがそこには日本政府の強制はなかった。応募した女性はみな多額の資金を得て、実際に慰安婦の活動を始めてからも、代金を得て、家族にまで送金していた実例が多数、記録に残っている。
 慰安婦問題の以上のような真実が一般大衆に人気のある警察小説でまで率直に明かされるようになったことは歓迎すべきだろう。その記述には朝陽新聞ならぬ朝日新聞への正面からの糾弾も改めて提示されているわけだ。