岩屋毅前外相が会長を務める対中友好団体の幹部連がこの9月下旬に集団で中国を訪問することが公表された。だがこの団体の出自を知ることが今の日中関係では極めて重要である。日本国際貿易促進協会(略称・国貿促)はそもそも中国共産党政権との連帯で設立され、中国側からは中日友好団体として日本への政治工作に利用され、アメリカ側の官民からも警戒された記録があるのだ。
岩屋氏がいま会長の国貿促は日中国交樹立の18年も前の1954年に新設された。その前年の1953年に中国側で中国国際貿易促進協会が設けられたことを受けての日本側の動きだった。まだ台湾所在の中華民国としか国交を結んでいなかった日本政府に北京政府への切り替えを貿易面から促すという政治目的が明白だった。
以来、日本側の国貿促は中国側との「友好貿易」の拡大に努め、同時に距離のあったソ連との貿易をも推進した。当時の国貿促は日本共産党の影響下にあったが、やがて同党と中国共産党との不仲のために、日本社会党が引き継ぐ形となった。
日本側には中国側から公式に認知された対中友好組織が少なくとも7つ、存在する。中国側が正式に「中日友好7団体」と呼ぶ組織である。具体的には以下の7つとなる。
・日中友好協会全国本部
・日本国際貿易促進協会
・日本中国文化交流協会
・日中友好議員連盟
・日中経済協議会
・日中協会
・日中友好会館
中国側は対日外交ではいつもこの7団体を重視し、国家首脳の日本訪問でもまず「友好7団体との会見」を優先してきた。また駐日中国大使館でも大使がこの7団体の代表を定期的に同大使館に招き、緊密な協議を重ねてきた。中国政府が日本の政治家や財界人を中国に招く際も、この友好7団体のメンバーを、というのが優先される定番となってきた。だからこの国貿促も歴代の会長は河野洋平とか林芳正という親中、媚中と目される北京政府に近い政治家がその任に当たってきた。その現会長が岩屋毅氏なのである。日中関係の険悪化、特に日本側の政府や世論の中国に対する反応の硬化が顕著な今、中国側がその切り崩しを狙うには最適の入り口となるわけだ。
中国当局は1972年の日中国交樹立の以前から、これら組織を「中日友好7団体」と呼び、特別に重視してきた。日本側への政策や要求の売り込みにもまずこれら団体の協力を求め、高官の訪日の際も同団体代表との会見を優先してきた。
私自身も北京での特派員時代、この国貿促の異様な動きを目撃した。1999年4月、当時、北京を訪問していた国貿促の中田慶雄理事長が記者会見で極めて政治的な発言をしたのだ。ちょうどそのころ大阪で「南京大虐殺の徹底検証」という日本側の研究集会が開かれ、日中戦争時の南京での戦闘では中国側が主張するほどの大規模な中国側民間人の犠牲はなかったようだという集約が出されていた。中国政府はその集約を厳しく非難した。
その時点で国貿促の中田理事長は中国の当時の朱鎔基首相や唐家璇外相と会談した。その直後に北京駐在の日本人特派員との会見に応じたわけだった。中田氏らの訪中は貿易問題が主題だったとは言え、南京での事件についての質問も出た。すると中田氏はすかさず答えた。
「歴史問題についての国貿促としてのきちんとした見解はもちろんあります。南京大虐殺は間違いなくあった。そこから教訓を学んでいかねばならない。謝罪も続けなければならない。それが私どもの見解です」要するに中国側の主張と同一の見解だというのだった。経済団体が歴史の見解にも踏み込んで中国側の非難に全面同意するのである。その上に中田慶雄氏といえば、日中関係では伝説的な人物だった。中国内部で日本人少年として終戦を迎えた中田氏は中国の共産党や八路軍とも密接な関わりを持ったことで知られていたのだ。
このように政治性の強い国貿促など日本側の友好7団体が中国の日本側の政策や態度を変えるための有効な武器となり得るから日本側も注意を要するという警告は、実はアメリカ側からも発せられていた。最も具体的な指摘はワシントンの研究機関「ジェームスタウン財団」が2019年6月に発表した「日本での中国共産党の影響力作戦の調査」と題する報告書だった。
同報告書は日中友好議員連盟などとともに日本国際貿易促進協会の名称を明記して、それら友好団体が中国共産党の統一戦線工作部などの対日政治工作に利用されることが多い、と警告していた。
アメリカの国防総省国防情報局(DIA)が19年1月に作成した「中国の軍事力」と題する調査報告書も日中友好団体の役割への警告を発していた。中国人民解放軍が日本に対する「政治闘争」のために「中日友好7団体」を利用することがあると述べたのだ。
いまや岩屋前外相が主導して中国を訪れる国貿促という組織には、こうした歴史や背景があることは日本側でも広く認知されるべきである。